【追悼文】西村朗先生について思い出すいくつかのこと

去る9月7日(木)、音楽家の西村朗先生が逝去しました。享年69歳でした。

西村先生が作曲家、教育者、さらにNHK FMの『現代の音楽』やNHK教育テレビの『N響アワー』などの司会者として活躍し、現在の日本を代表する音楽家の一人であることは周知の通りです。

特に作曲家としては三善晃、一柳慧の両氏とともに歴代最多となる6度の受賞を記録しており、斯界の牽引役として大きな役割を果たしてきました。

私が西村先生の作品を初めて会場で直接耳にしたのは、1997年10月25日(土)にサントリーホールで行われた東京交響楽団の第411回定期演奏会でした。

このとき、同団が委嘱した新作『蓮華化生』が、セルゲイ・ナカリャコフを独奏に迎えたハイドンのトランペット協奏曲とブラームスの交響曲第4番とともに演奏されました。

世界初演となった演奏では、垂直的に動く旋律の重なり合いが法隆寺の玉虫厨子に描かれる捨身飼虎図を連想させ、聴覚だけでなく視覚にも訴えかける西村先生の音楽の奥行と広がりの強さを実感したものです。

その後、西村先生のいくつかの作品を会場で聞く機会はあったものの、『蓮華化生』の印象が薄れることはなく、この時の演奏がCD化された際には、早速買い求めたものでした。

ところで、西村先生は9月3日(日)に放送された『現代の音楽』の中で、9月末で司会を退任し、後任の司会を白石美雪先生が担当する旨を表明されました。

この時には「この番組への出演は長く、通算で15年半に及びました」という一言をそのままに受け止め、司会者が定期的に交代してきた番組だけに、今回もそうした番組の特徴による交替かと思っていました。

しかし、今回の訃報に接した後では、自らの病状を知っていた西村先生が聴取者に迷惑をかけないためにとった措置であることが推察され、それだけこのときの放送の一言の重みが実感されるところです。

今年9月8日(金)に70歳となり、いよいよその芸術の大成の時期を迎えようとしていた西村朗先生の長逝は大いに惜しまれるものです。

改めてご冥福をお祈り申し上げます。

<Executive Summary>
Miscellaneous Memoris of Professor Akira Nishimura (Yusuke Suzumura)

Professor Akira Nishimura, a composer and a Former Professor of Tokyo University of the Arts, had passed away at the age of 69 on 7th September 2023. On this occasion, I remember miscellaneous memories of Professor Nishimura.

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