「発足1か月を経た菅内閣」にわれわれは何を望むか

昨日、今年9月16日に菅義偉内閣が発足してから1か月が経ちました。

新内閣の発足から1か月に際し、菅首相は以下のように所感を表明しました[1]。

国民のために働く内閣を発足してからもう1か月、振り返る間もなく早かったな、というのが私の率直な感じであります。
そして、私自身、常に念頭に置いていますのは、やるべきことをスピード感を持って躊躇なく実行に移すこと。
そしてまた、携帯電話の引下げを始めとして、できるものから改革を進めて国民の皆さんに実感として味わっていただくこと。
これからもいろいろな課題山積しておりますけれども、初心を忘れずに一つ一つ着実に実行に移していきたい、このように思います。

「できるものから改革を進め」るための具体例として「携帯電話の引下げ」が示されたことは、菅首相の言う「改革」が「できるものから」という点を重視した現実的な取り組みであることを推察させます。

その一方で、携帯電話の通話料や契約料の改変を「改革」と称するところに一種の心もとなさを感じさせるのも否めないところです。

実際、衆議院議員の任期満了まで約1年となり、選挙による国民の審判を受けていないばかりでなく所信表明演説さえ行っていない菅内閣ながら、日本学術会議の新会員の任命問題など、政権の体力を削ぐような措置が取られています。

例えば、過去の政府による国会答弁の内容とも日本学術会議法の規定とも一致しない「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点」[2]による判断は、場合によっては行政行為とみなされ、司法の判断を仰ぐために行政訴訟に発展する可能性もあります。

こうした場合、日本学術会議の人事問題は、すでに終わったことと強調する政権側の思惑[3]とは異なり、今後も続くことになります。

むしろ菅内閣が行うべきは、主たる政策として掲げたいわゆるデジタル庁の創設にむけ、内閣府、総務省、経済産業省など関係省庁からデジタル庁が所管する分野を分離し、新庁に集約するといったより多くの政治的な体力を要する取り組みです。

就任記者会見の際に「国民のために働く内閣」を標榜しただけに、菅義偉首相にはデジタル庁や携帯電話の料金引き下げから日本学術会議の人選問題に至るまで、「国民のために働」いた結果であると説得的に説明することが求められると言えるでしょう。

[1]菅内閣発足1か月の心境についての会見. 首相官邸, 2020年10月16日, https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202010/16bura.html (2020年10月17日閲覧).
[2]前例主義 打破する. 読売新聞, 2020年10月6日朝刊10面.
[3]任命拒否「適法」強調. 読売新聞, 2020年10月8日朝刊3面.
[4]菅内閣総理大臣記者会見. 首相官邸, 2020年9月16日, https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/0916kaiken.html (2020年10月17日閲覧).

<Executive Summary>
What Is the Future Path for Prime Minister Yoshihide Suga and His Cabinet? (Yusuke Suzumura)

One month had passed since the formation of the Suga Cabinet on 16th October 2020. In this occasion we examine the future path for the cabinet.

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