「マスク着用基準の変更」の問題点は何か
5月23日(月)、政府は新型コロナウイルス感染症対策本部を開催し、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を変更するとともに、マスクの着用については屋内でも他者との距離が2メートル以上確保でき、会話をほとんどしない場合には、着用の必要がないと明記しました[1]。
学校での体育の授業や運動部の活動の際にマスクの着用を不要としたこと、あるいは幼児に対して保育所で一律の着用を求めないとしたことは、梅雨や夏を控え、熱中症対策が必要となり、あるいは幼児の体調や発育が異なるという実情を考えれば、合理的な措置と言えるでしょう。
また、屋外や屋内でのマスクの着用についても、一定の基準が示されたことは、誰もが参照できるという意味で重要です。
一方で、これまで科学的な成果に基づいた対策の重要さが指摘され、相応の知見が蓄積されています。
それにもかかわらず、今回の「基本的対処方針」や厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部と子ども家庭局が連名で各自治体の衛生主管部局と保育主管部局に宛てた5月20日(金)付の事務連絡[2]に、どのような知見に基づいて方針の変更が判断されたかが一目で分かるように明記されていない点には、疑問の余地があります。
もちろん、実態に即した機動的な対応は人々の日常生活や経済活動に不可欠であり、何らかの基準の維持が優先されてこれらの事項がないがしろにされることは看過できません。
それでも、参照可能な情報を示さずに議論がなされることは、判断の妥当性を当事者以外が検証することを難しくします。
そのため、例えば今年6月から外国から日本を訪れる人たちの受け入れ基準を緩和することにあわせて基準を改める、あたかも「インバウンド対策」として今回の措置が導入されたとみなす余地を与えます。
こうした考えは揣摩憶測の域を出ないかも知れないものの、限定的な情報を示すだけではこうした見立てを一掃することも難しいものです。
それだけに、当局者には恣意性を排した基準の変更であることを改めて明示することが求められると言えるでしょう。
[1]新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和4年5月23日変更). 首相官邸, 2022年5月23日, http://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_r_040523.pdf (2022年5月25日閲覧).
[2]事務連絡. 厚生労働省, 2022年5月20日, https://www.mhlw.go.jp/content/000941323.pdf (2022年5月25日閲覧).
<Executive Summary>
What Is a Problem of the Japanese Government's Decision to Change the Condition Taking Off Masks Indoor? (Yusuke Suzumura)
The Japanese Government decided to change the condition to take off masks to prevent coronavirus infection on 23rd May 2022. In this occasion we examine a problem of this change focusing on the viewpoint of evidence-based policy making.