菅義偉首相は自民党総裁選挙で不利な状況に置かれているか

今年9月30日(木)の任期満了に伴う自由民主党の総裁選挙について、党内の動きが活発になってきました。

本来であれば現職の総裁である菅義偉首相の再選が確実であるにもかかわらず、自民党内で新たな「選挙の顔」が求められるのは、8月22日(日)に投開票が行われた横浜市長選挙で菅首相が全面的に支援した小此木八郎前国家公安委員長が落選したことで、「菅首相では選挙が厳しい」という意見が台頭しているためです。

こうした状況は、一見すると菅首相にとって不利なように思われます。何より、今年10月21日(木)の衆議院議員の任期満了が近づくにつれ、特に選挙の支援体制が比較的脆弱な当選1回目から3回目までの議員が有権者の支持の高くない菅首相を総裁として擁しながら選挙を行うことに不安を覚えることは、ある意味で当然と言えるでしょう。

その一方で、党内の様子を眺めると、総裁選への立候補が取りざたされる、あるいは党内の有力な候補者の動向は必ずしも菅首相が不利な状況に置かれているのではないことを伝えます。

例えば、岸田文雄前政調会長は昨年9月の総裁選挙で菅首相に敗れ、新体制下で無役となったことで派閥の求心力を維持するためには総裁選への立候補が不可欠となります。

しかし、有権者の間での知名度や存在感の乏しさはいかんともしがたく、「選挙の顔」としては力不足なだけに、岸田氏が党内の支持を集めるという状況は想定しにくいところです。

また、党内反主流派として国民の間での支持の高い石破茂元幹事長が総裁選の前に菅首相の下で衆院選を行うことを主張するのは[1]、一見すると奇異に見えるかも知れません。

ただ、現在の石破派が総裁選への出馬に必要な推薦人20人を下回っていることを考えれば、早期に総裁選挙が行われることで石破氏の立候補が難しくなり、求心力を保てずに派閥が解体する危険性が高まります。

しかも、知名度のある石破氏が「首相支持」の姿勢を示せば、総選挙の結果いかんによって菅首相から禅譲される可能性もあります。それだけに、いたずらに総選挙の実施を求めるより、時期を待つ方がより好ましい選択肢となることでしょう。

推薦人を巡る事情は下村博文政調会長や高市早苗前総務大臣ら、出馬の意向を示している人々の場合も同じで、本人の意向と所定の推薦人を集められるかは別の問題となります。

このように考えれば、現時点において、菅首相は本人が出馬を決心すれば、たとえ複数の候補者が立候補するとしても有利な状況の中で総裁選挙を戦えるといえるでしょう。

[1]首相、総裁選出馬の意向. 日本経済新聞, 2021年8月24日朝刊3面.

<Executive Summary>
Will Prime Minister Yoshihide Suga Win the LDP Presidential Election? (Yusuke Suzumura)

It seems that Prime Minister Yoshihide Suga will be elected as the President of the LDP for the second time. However actual situation might be different from what is said, since there is no competitive candidate for him in the LDP.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?