トランプや小トランプに悩まされる米球界

去る6月19日(月)、日刊ゲンダイの2023年6月20日号27面に私の連載「メジャーリーグ通信」の第141回「トランプや小トランプに悩まされる米球界」が掲載されました[1]。

今回は、米国のドナルド・トランプ前大統領が連邦犯罪で起訴されたことに関連し、経営陣の多くが共和党を支持する大リーグにとって一連の出来事がどのような影響を与えるかについて検討しました。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


トランプや小トランプに悩まされる米球界
鈴村裕輔

今年3月に米国の大統領経験者として初めて連邦犯罪で起訴されたドナルド・トランプが、今度は機密文書の取り扱いを巡り37の罪状で訴追された。

当の本人は来年の大統領選への出馬を宣言した後に司法当局が起訴したため、選挙妨害だと反発する。昨秋の中間選挙で支援する候補者が落選するなど、トランプの政治的な影響力は周囲の予想に反してかげりがみえている。

それだけに、今回の一件は、トランプにとって有権者に「不当な迫害を受ける候補者」という印象を与え、共和党内の大統領指名争いを有利に進めるための格好の機会となる。

一方、球団経営者の4分の3が共和党を支持する大リーグにとっては、トランプの反応は悩ましいものだ。何故なら、もしトランプが訴追の影響で大統領選への出馬を撤回したとしても、共和党にはトランプのような極端な発言を行っても問題視しない雰囲気が充満しているからである。

米国民の分断や米国の国際社会からの孤立を招いたとされるトランプながら、その発言は共和党支持者の多くから肯定され、受け入れられている。そのため、党内には「小トランプ」ともいうべき存在が少なくない。

例えば、昨年4月にジョージア州でアフリカ系アメリカ人の投票権に関する州法が可決された際、機構はアフリカ系アメリカ人に不利な影響を与えるとして不満を表明した。さらに、この年のオールスター戦の開催地をジョージア州アトランタからロサンゼルスに変更し、抗議の姿勢を示している。

これに対して共和党上院議員のランド・ポールは「投票するのに身分証明書の提示が必要というのが人種差別だとしたら、平均100ドルを超えるヤンキースの入場券も差別的」と批判し、共和党として野球をボイコットするよう呼びかけた。

あるいは、テキサス州知事でトランプとも親しいグレッグ・アボットは、LGBTQに対して反対の立場をとっている。そのため、テキサスを本拠地とするレンジャースは、LGBTQへの理解の促進を図る「プライドデー」に、運動の象徴である虹色の帽子を着用しないことを決めている。大リーグ30球団のうちレンジャースのみが独自の行動をとることは、それだけテキサスの保守化が進んでいることを示唆する。

現在、トランプ化した共和党は、約4割が民主党を応援している観客の批判の対象となっている。そして、思わぬ形で共和党を支持する経営陣と民主党寄りの観客の対立が起きれば、球界の分断が進みかねない。

球界がトランプでも、小トランプでもない、伝統的な保守政治家の登場を待ちわびるのは、こうした事情によるのである。


[1]鈴村裕輔, トランプや小トランプに悩まされる米球界. 日刊ゲンダイ, 2023年6月20日号27面.

<Executive Summary>
We Do Not Need Trump and Little Trump: MLB's Concern the "Trump Issues" (Yusuke Suzumura)

My article titled "We Do Not Need Trump and Little Trump: MLB's Concern the "Trump Issues"" was run at The Nikkan Gendai on 19th June 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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