年俸高騰の裏に経営環境の劇的な改善

去る11月14日(火)、日刊ゲンダイの2023年11月15日号23面に連載「メジャーリーグ通信」の第150回「年俸高騰の裏に経営環境の劇的な改善」が掲載されました[1]。

今回は、大リーグにおけるフリーエージェント市場を中心とする年俸の高騰の背景を、球団の経営環境のあり方から分析しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


年俸高騰の裏に経営環境の劇的な改善
鈴村裕輔

2023年の大リーグはレンジャースのワールドシリーズ初制覇で幕を下ろした。次に待つ大きな話題はFA選手の移籍交渉である。

今年のFA市場の最大の関心は大谷翔平(エンゼルス)の動向だ。エンゼルス以外にも投打のいずれでも起用する球団があるのか、ある場合にはどのような規模の契約となるのか、さらに投打のいずれかを選ぶことを希望する球団ばかりの場合、エンゼルスに残留するのかなど、関係者の大きな注目を集めている。

ドジャースが10年5億2000万ドルという条件で大谷との契約を目指しているともいわれており、改めて大リーグの契約規模の大きさが示された形だ。

このような高額の契約が取りざたされるのも、大リーグが年俸総額制を採用していないことが一因である。

だが、どれほど獲得したい選手ではあっても、各球団の支払い能力に応じて契約が決まるというあり方が、大リーグの一般的な球団経営である。そのため、経営者たちが高額な契約に耐えうるだけの資金力を備えなければ、たとえ選手側が要求しても満足のゆく回答は得られない。

確かに、大リーグでは、毎年所定の年俸総額を超えると、その超過金額に応じて追加の負担金が課せられる贅沢税の制度がある。

しかし、贅沢税の支払いよりも有力選手の獲得がもたらす経営上の利点の方が大きいと判断されれば、各球団は躊躇なく選手を入団させる。

これに加えて、球場の債務返済分を控除した後の30球団の収入が2022年に過去最高の103億ドルを達成するなど、大リーグを取り巻く経営環境の良好さを見逃すことが出来ない。

コロナ禍を受けた無観客での公式戦の実施(2020年)や観客数の制限(2021年)を考えれば、種々の制約なしに観客を受け入れられた2022年に入場券販売やスイートやクラブシートなどのいわゆるプレミアム座席の売り上げが大幅な伸びを実現した。

そして、今季は2017年以来6年ぶりに大リーグ全体の来場者数が7000万人台を回復するなど、各球団の経営陣にとっては選手の補強のためにより一層資の金を投入するための原資に厚みが増す条件が整っている。

このように、近年ますます進む大リーグでの年俸の高騰は、経営者たちのが置かれた状況の良さが大きく影響しているのである。


[1]鈴村裕輔, 年俸高騰の裏に経営環境の劇的な改善. 日刊ゲンダイ, 2023年11月15日23面.

<Executive Summary>
The MLB Teams Enjoy the Recovered Business Environment (Yusuke Suzumura)

My article titled "The MLB Teams Enjoy the Recovered Business Environment" was run at The Nikkan Gendai on 15th November 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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