初の所信表明演説で菅義偉首相は「政権運営への意欲の強さ」を訴えられたか

昨日、第203回臨時国会が召集され、菅義偉首相が所信表明演説を行いました[1]。

「デジタル社会の実現」、「活力ある地方を創る」、「新たな人の流れをつくる」といった項目は、これまでの菅首相の発言をまとめただけの新味に欠ける総花的な内容ながら、政権の大方針を示したという意味で、組閣後最初の所信表明演説としては適切な態度と言えます。

また、故事や古言の曲解的な引用がなかったことは大いに評価されるべきでありましょう。

一方、大方針をどのような形で実現するのかという具体的な方策がどのように選択されるかという点について踏み込んだ発言がなかったことは、迫力を欠くものでした。

さらに、「デジタル社会の実現」の中でいわゆるICT化の推進の一環として教育の問題が言及されているものの、科学技術のあり方などが取り上げられていないことは、一面において演説の内容が散漫になることを防ぐための措置であろうと推察されるものの、他面においては菅首相が教育や科学技術などについて積極的な興味や関心を抱いていないことが示唆されます。

あるいは、安倍前首相が進めたいわゆる「アベノミクス」の継承や「秋田出身の苦労話」といった、菅首相が主体性を発揮するための障壁となる話題[2]を盛り込んだことは、菅首相自身には政権の正当性を訴えるために必要ではあっても、「小安倍内閣」の印象を強めかねないものです。

その意味で、今回の所信表明演説は、政権運営に対する意欲の強さを訴えるには迫力を欠いたものであったと言えるでしょう。

[1]第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説. 首相官邸, 2020年10月26日, https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html (2020年10月27日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 菅義偉首相が主体性を発揮するために考えるべき二つの点は何か. 2020年9月17日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/16bb0eb3161c54f0c490b86b7cf381b4?frame_id=435622 (2020年10月27日閲覧).

<Executive Summary>
Prime Minister Yoshihide Suga Failed to Emphasise His Passion to Maintain the Cabinet (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Yoshihide Suga made the first General Policy Speech at the House of Representatives and the House of Councilors on 26th October 2020. In the speech he could not show his passion to maintain the cabinet.

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