ヤンキースの「ブレークスルー感染」が明らかにしたCDC指針の問題点

去る5月31日(月)、日刊ゲンダイの6月1日号25面に連載『メジャーリーグ通信』の第93回「ヤンキースの「ブレークスルー感染」が明らかにしたCDC指針の問題点」が公開されました。

今回は、米国で問題にありつつある新型コロナウイルス感染症の「ブレイクスルー感染」と球界の関係を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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ヤンキースの「ブレークスルー感染」が明らかにしたCDC指針の問題点
鈴村裕輔

一時は1日当たりの新型コロナウイルスの感染者が世界最多であった米国も、最近では新規感染者の数が減少の傾向を示している。

ワクチンの早期実用化のためにトランプ政権が推進した「ワープ・スピード作戦」もあり、バイデン政権下でワクチンの接種が進んでいる。

大統領のジョー・バイデンは、今年1月20日の就任から100日を目途に累計で1億回の接種を実現すると計画したものの、3月末に目標を達成している。さらに1か月後の4月末には延べ2億回の接種を完了し、現在では7月4日の独立記念日までにワクチン接種を1回は受けた成人の割合を70%とする新たな目標を表明した。

安全性への不安などから若年層の接種が停滞気味となっている現状を打破するため、米国民にとって最も重要な日である独立記念日を目標の達成日とする点に、ワクチンの接種が経済の正常化に不可欠という政権側の強い意図が窺われる。

また、米国疾病対策センター(CDC)は所定の接種回数を完了した場合は屋内外を問わずマスクの着用は不要とし、物理的距離の確保も必要ないとする新たな手引きを公表した。

新たな指針の公表に合わせ、すでに予防接種を完了しているバイデンは大統領執務室で共和党議員とともにマスクを外して談笑する様子を公開し、ワクチン接種の重要さを国民に訴えかけた。

一方で、気になる出来事も起きている。

5月12日にヤンキースは選手やコーチが新型コロナウイルスに感染したことを公表した。

これだけなら人々の注目を集めはしても、今やだれが新型コロナウイルスに感染してもおかしくない状況だけに、驚くには値しない。

重要なのはいずれも所定のワクチン接種を完了していたことであり、特に遊撃手のグレイバー・トーレスは昨年12月に一度感染し、感染後に予防接種を行ったにもかかわらず再度感染しているという点だ。

ヤンキースの事例は、予防接種後に新型コロナウイルスに感染する「ブレイクスルー感染」が起きていることを示している。

こうした状況を受けて、CDCは米国食品医薬品局が承認したワクチンの有効性は高いものの、集団免疫が伝染を抑制するのに十分な水準に達していない場合には「ブレイクスルー感染」が発生する可能性があるとする調査結果を公表した。

CDCの報告からは、「予防接種を完了すればマスクを外してもよい」という指針は、十分な集団免疫を獲得する場合に有効であり、接種後も当分はマスクを着用する方が無難であることを伝えている。

その意味で、トーレスらの「ブレイクスルー感染」はCDCの手引きの問題点を明らかにすることに一役買ったと言えるのである。
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[1]鈴村裕輔, ヤンキースの「ブレークスルー感染」が明らかにしたCDC指針の問題点. 日刊ゲンダイ, 2021年6月1日号25面.

<Executive Summary>
COVID-19 Breakthrough Infections at the New York Yankees Show Problems of the CDC's Guideline (Yusuke Suzumura)

My article titled "COVID-19 Breakthrough Infections at the New York Yankees Show Problems of the CDC's Guideline" was run at The Nikkan Gendai on 31st May 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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