岸田文雄氏にとって自民党総裁選出馬の持つ意味は何か

今日、自民党の岸田文雄前政調会長が今年9月末の任期満了に伴う総裁選挙への立候補を正式に表明しました[1]。

昨年9月の総裁選挙で菅義偉首相に敗れた岸田氏は新体制下で無役となっており、派閥の結束を維持するためにも総裁選挙への出馬は不可欠です[2]。

その一方で、出馬を辞退した場合を除いて現職の総裁が立候補して落選したのは1978年の福田赳夫首相だけであることを考えれば、菅首相が立候補すれば有利な状況で選挙戦を進められることは容易に推察されます。

このとき、前回に引き続き当選を逃すとしても菅首相との間に大差がつけば、岸田派内で世代交代の本格化しかねません。

こうした状況を見据え、1995年の総裁選挙で「一匹狼」とも言われた橋本龍太郎通産大臣が2つの議員連盟を背景に党内から幅広い支持を獲得し、現職の河野洋平総裁を出馬辞退に追い込んだ故事に倣うかのように、岸田氏も今年6月に自らが会長を務める議員連盟を発足させる[3]など、派閥の枠を超えた勢力の扶植に取り組んでいます。

しかし、橋本氏が蔵相、幹事長を歴任し、通産相としても日米自動車交渉を取りまとめるなど実際の政治力や政策を実現する手腕を発揮するとともに、国民の間でも高い人気を博していました。

これに対し、岸田氏は一派の長ではあり、国務相、防相、外相を務めたものの、約4年8カ月にわたって務めた外相としては「外交・歴史観の相違は明らかだったが、役目を従順にこなすだけの姿勢が目立」[4]つなど、行政面での実績は必ずしも十分ではありませんでした。

また、昨年9月には最初の著書『岸田ビジョン』を上梓したものの、格差の拡大を解消し、中間層の没落を食い止め、国内あるいは国家間の分断を解消するとともに「デジタル田園都市構想」の実現を目指すという内容は、崇高な理念を示するものではあっても具体的な政策の提起としては物足りないものに留まります。

何より、国民の間での認知の程度が高くないことは、岸田氏にとって不利な条件となるでしょう。

その意味で、現時点で岸田氏の総裁選出馬は派閥対策の域を出ないというのが実情で、いかにして集票力を誇示するかが最大の関心であると言えるのです。

[1]岸田氏、出馬表明「幅広い選択肢示す」 自民総裁選. 日本経済新聞, 2021年8月26日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA25DC50V20C21A8000000/?n_cid=BMSR2P001_202108261504 (2021年8月26日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 菅義偉首相は自民党総裁選挙で不利な状況に置かれているか. 2021年8月25日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/c9e3dbf2e24294aac238e0533fcee6c5?frame_id=435622 (2021年8月26日閲覧).
[3]岸田氏新議連に145人. 読売新聞, 2021年6月12日朝刊4面.
[4]閣僚通信簿 第2次安倍内閣〈1〉. 朝日新聞, 2014年8月23日朝刊4面.

<Executive Summary>
What Is an Important Element for Mr. Fumio Kishida to Participate in the LDP Presidential Election? (Yusuke Suzumura)

Former Foreign Minister Fumio Kishida declares to run for the LDP Presidential Election on 26th August 2021. In this occasion we examine an important element for Mr. Kishida to participate in the election.

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