政府による「新型コロナの入院対象の変更」の意味は何か

昨日、政府は新型コロナウイルス感染症の医療提供体制に関する関係閣僚会議を行い、入院の対象者を重症者や重症化の危険性がある人とする方針を決めました[1]。

これは、都道府県が確保した新型コロナウイルス感染症用の病床が今年7月下旬時点で3万6千床で、今年1月からの上積みが8千床に留まり、病床の拡充が進まないことを背景とした措置です。

確かに、病床を十分に確保できていないという状況を考えれば、重症者などへの対策を手厚くすることは合理的な方針と言えるでしょう。

その一方で、菅義偉首相は重症者や重症化の危険性の高い人以外については自宅での療養を基本とし、症状が悪化した際にすぐに入院できる体制を整備すると発言したものの[1]、重要なのは発言の内容そのものよりも、いかにして発言の内容を実現するかという点であることは論を俟ちません。

すでに病院行政を所管する厚生労働省は適切な体制を構築しているか、構築しつつあるかもしれません。

しかし、これまで当局の度重なる要請にもかかわらず新型コロナウイルス感染症用の病床の積み増しが進まなかったことを考えれば、「症状が悪くなればすぐに入院できる体制を整備する」という菅首相の言葉をそのまま受け入れることは容易ではありません。

むしろ、入院対象者が絞り込まれることに応じて病院側も病床の転換の速度を緩めたり一般病床への再転換が図られることもあり得ます。

そのため、新しい方針に従って自宅で療養していたものの重症化したために入院先を探したものの受け入れ先がなく、症状がより深刻になるといった事例が生じる可能性も否定できません。

このように考えれば、今回の方針の転換が医療現場に混乱をもたらすことがあってはならないのは当然であるばかりでなく、起きうる事態を可能な限り検討した上での結論でなければ、当局は人々の福祉を守るという責務を果たすことは難しくなります。

それだけに、今回の措置が病床不足をしのぐためだけの当座の策として用いられ、必要な検討を経ずに決められたものでないことが望まれます。

[1]入院対象、重症者ら重点. 日本経済新聞, 2021年8月3日朝刊1面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of the Japanese Government's New Plan for COVID-19 Patients to Recuperate at Home? (Yusuke Suzumura)

The Japanese Government decided to introduce a new policy for COVID-19 patients to recuperate at home on 2nd August 2021. In this occasion we examine a meaning of this policy change.

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