【書評】朝日新聞取材班『米中争覇』(朝日新聞出版、2020年)

去る10月30日(金)、朝日新聞取材班による『米中争覇』(朝日新聞出版、2020年)が上梓されました。

本書は、朝日新聞が2018年12月から2020年5月にかけて掲載した「米中争覇」及び2020年4月の連載「コロナ危機と世界 リーダーの不在」を再構成したものです。

新型コロナウイルス感染症の拡大を巡る対立、軍備拡張だけでなく宇宙探索で極地開発など繰り広げられる競争、技術上の覇権争い、ソフト・パワーの観点から見た比較、さらに世界各地で行われる外交上の相克を通し、米中両国の覇権争いの経緯と展開、そして今後の見通しが描かれます。

米中両国の政府当局者や専門家、さらに日本の関係者への取材と状況の分析によって明らかになるのは、米ソの冷戦はソ連が米国に比べて脆弱な経済力を向上させることが出来なかったために終結とソ連の崩壊に繋がったのに対し、米中の対立は中国の経済の規模が米国に肉薄していること、あるいはソ連の衛星国が限定的であったのに対して中国は「一帯一路」政策などを通して世界各地に勢力を扶植しており、少なくとも現時点では早期の体制の崩壊へと至る可能性が低いということです。

また、米国のトランプ政権は「米国第一主義」を掲げ、従来の米国の伝統的な外交政策と一致しないものの、国防上の懸念から中国への警戒感を高める共和党主流派と産業の空洞化の影響を受ける労働者を主たる支持基盤とする民主党も中国への強硬な姿勢を示しており、「トランプ外交」と「アメリカ外交」が交わるのが対中政策であるという点は、たとえ米国に新政権が誕生しても中国への対応が劇的に変化する余地に乏しいことを示唆します。

さらに、こうした中で、米中の対立から距離を置く日本が果たしうる役割の大きさが指摘されるなど、本書は米中の覇権争いが日本に無関係ではなく、むしろ重要な問題であることも指摘します。

確かに、新聞の連載をまとめたという特徴から、本書の重点が事実関係の整理やそれぞれの出来事の背景の分析などに置かれ、今後の「米中争覇」の推移や世界のあり方への展望といった側面に割かれる紙面は必ずしも多くはありません。あるいは、両国の覇権争いの解決策が明確に示されているわけでもありません。

それでも、現在の国際社会にとって最大の懸案事項の一つであり、今後も確実に世界の動向に大きな影響を与える米中の対立の経緯を理解することは、これからの展開を見通すために不可欠です。

その意味で、『米中争覇』は覇権の多元化が加速する今後の国際社会の姿をよりよく知るための格好の一冊と言えるでしょう。

<Executive Summary>
Book Review: The Asahi Shimbun Reporting Team's "The US China Struggles" (Yusuke Suzumura)

The Asahi Shimbun Reporting Team published a book titled The US China Struggles from the Asahi Shimbun Publications on 30th October 2020.

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