「百貨店の影が薄くなる渋谷」を通して考える百貨店と文化の発信と受容のあり方

去る1月31日(火)に東急百貨店本店が営業を終了したことで、渋谷地区における百貨店は西武渋谷を残すのみとなりました。

かつては東急が本店とともに東横店を擁していたことを考えれば、今昔の感に堪えません。

これは、一方では百貨店の売り上げが1990年代以来、長期にわたり低迷するという業界全体の構造的なあり方を反映した結果と言えます。

また、他方では百貨店の提供する役務が、多様化する消費者の嗜好に対応しきれていないという実情を示します。

しかし、例えば百貨店が開催する美術展や展覧会は、1830年代のパリのバザール・ボンヌ・ヌーヴェルをはじめとして、欧州でも見出せる事例ながら、質と量の面で他に類例を見ない、日本の百貨店に特徴的な要素の一つです[1]。

いわば、日本においては、様々な文化の発信と共有の場の一つが百貨店であり、百貨店での展覧会は鑑賞者にとって美術館や博物館での展覧会と同じ範疇に含まれるものでもありました[2]。

その意味で、百貨店の担う役割は決して小さいものではありません。

もちろん、今や百貨店を文化の重要な発信者と捉える見方は少数派かも知れませんし、そうした役割を期待することそのものが現状にそぐわないものかもしれません。

それでも、文化の発信と受容の多様さという観点からすれば、百貨店が渋谷地区で先細るということは、先端的な文化の発信地を標榜している同地区にとって、決して好ましいことではありません。

それだけに、百貨店の影が薄くなる渋谷において、文化の発信と受容のあり方がどのように変化するか、今後の動向が注目されます。

[1]荒川裕子, アートを受容する場の多様性. 安孫子信編, アート東京/文学と東京. 法政大学江戸東京研究センター, 2019年, 6頁.
[2]同, 8-9頁.

<Executive Summary>
What Is an Important Viewpoint to Understand a Meaning of the Department Stores in Shibuya (Yusuke Suzumura)

The Main Store of the Tokyu Department Store was closed on 31st January 2023. On this occasion we examine a meaning of the department stores in Shibuya focusing on cultural communicasion.

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