キューバ五輪予選敗退の必然 相次ぐ亡命と深刻な人材不足

去る6月14日(月)、日刊ゲンダイの2021年6月15日号27面に、連載「メジャーリーグ通信」の第94回「キューバ五輪予選敗退の必然 相次ぐ亡命と深刻な人材不足」が公開されました[1]。

今回は東京五輪野球競技の米大陸予選でキューバが敗退した背景を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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キューバ五輪予選敗退の必然 相次ぐ亡命と深刻な人材不足
鈴村裕輔

キューバ革命を率い、その後も長く最高指導者として君臨したフィデル・カストロは幼少期から野球に親しみ、「ヤンキースからスカウトされた」という噂がまことしやかにささやかれるほどであった。

それだけに、野球がキューバの国技として奨励されたのも不思議ではなく、オリンピックでの3回の優勝やIBAFワールドカップでの優勝25回などの輝かしい戦歴に彩られた「野球強豪国・キューバ」が誕生したのであった。

しかし、2006年に体調を崩したカストロに代わり実弟のラウル・カストロが政権を担当すると、段階的に部分的な市場経済制度が導入され、野球を取り巻く環境が変化する。

従来の社会主義経済体制の下では、国家公務員として生活を保障されるなど、野球選手の経済的地位は高かった。

これに対し、限定的ながら経済の自由化が始まると国家公務員である野球選手は経済の発展から取り残される形となり、結果として有力な選手がよりよい待遇を求めて大リーグに亡命する事例が増加することになる。

しかも、亡命した選手は、母国への帰還が禁じられる。そのため、キューバは、ヤンキースのアロルディス・チャップマンや元メッツのヨエニス・セスペデスといった、本来であれば代表として活躍すべき選手を欠いたまま国際大会に臨まざるを得ない。

キューバ代表が2010年のIBAFインターコンチネンタルカップを最後に国際大会で優勝していないことからも、キューバの球界にとって人材の確保が不可欠なのは明らかである。

2015年に当時のオバマ政権が米国とキューバとの国交回復を行い、野球についても2018年に大リーグ機構とキューバ野球連盟の間で協定が結ばれた。これにより選手が亡命することなく大リーグに移籍できる仕組みなどが整えられ、キューバ球界にとって現状を打破する機会が訪れたかに見えた。

だが、「反オバマ」のトランプ政権が協定を破棄し、オバマ時代の政策の多くを引き継いだバイデン政権はキューバとの関係改善には消極的なため、新たな協定は結ばれていない。

さらに、若年層を中心にサッカーの人気が高まりを見せ、有望な人材が野球を選ばなくなる傾向があることを考えるなら、状況が劇的に変化することは期待できないし、今年4月にキューバ政府の体制が刷新されたことで、野球を特別視した「カストロの時代」は完全に幕を下ろした。

一連の出来事は、今後、キューバでは野球だけが特別視される時代は再び訪れないことを示唆している。

その意味で、野球大国と思われたキューバが東京五輪の米大陸予選で敗退したことは、決して偶然ではなかったのである。
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[1]鈴村裕輔, キューバ五輪予選敗退の必然 相次ぐ亡命と深刻な人材不足. 日刊ゲンダイ, 2021年6月15日号27面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Cuba's Elimination of Tokyo 2020 Baseball Qualifying? (Yusuke Suzumura)

My article titled "What Is a Meaning of Cuba's Elimination of Tokyo 2020 Baseball Qualifying?" was run at The Nikkan Gendai on 14th June 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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