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数学と証明と物語と。【第5話】2次方程式の根と係数の関係、判別式

家に帰り着く頃には雨があがっていた。さっきまでの嵐が嘘だったかのように晴れ間さえ見え始めている。帰り道の水溜まりが夕日の光を反射してキラキラと輝く。木々は雨の後の清々しさを纏っており、空気もひんやりとして涼しげだ。鳥たちも歌い始めた。まるで自然が一息ついているかのように感じられた。

近くの公園では子供たちが水溜まりで遊ぶ姿や、散歩を楽しむ家族の姿が見えた。雨上がり後特有の土の匂いが鼻を抜けて、一日の終わりを静かに迎える街の風景が広がっていた。

「雨上がりってテンション上がるなぁ」と私は一人呟く。

そんなこんなで家に到着した。手を洗い、おやつを持って自室まで急ぐと、さっそく机に向かった。部室での続きをやろうという気持ちだった。2次方程式の解の公式を導出はしたが、まだまだやることはある。

2次方程式 $${ax^2+bx+c=0\;(a \not= 0)}$$ の根は

$$
x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}
$$

である。これはさっき部室で証明した。

それでは、2次方程式 $${ax^2+bx+c=0\;(a \not= 0)}$$ の二つの根を $${\alpha, \beta}$$ とするとき、

$$
\def\arraystretch{2.0}
\begin{array}{}
\alpha + \beta &=& -\frac{b}{a} \\
\alpha \beta &=& \frac{c}{a}
\end{array}
$$

であることを証明してみよう。

【証明開始】2次方程式 $${ax^2+bx+c=0\;(a \not= 0)}$$ の二つの根を

$$
\def\arraystretch{2.0}
\begin{array}{}
\alpha &=& \frac{-b + \sqrt{b^2-4ac}}{2a} \\
\beta &=& \frac{-b - \sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\end{array}
$$

とする。ということは、

$$
\def\arraystretch{2.0}
\begin{array}{}
\alpha + \beta &=& \frac{-b + \sqrt{b^2-4ac}}{2a} + \frac{-b - \sqrt{b^2-4ac}}{2a} \\
&=& \frac{-2b}{2a} \\
&=& - \frac{b}{a}
\end{array}
$$

である。また、

$$
\def\arraystretch{2.0}
\begin{array}{}
\alpha \beta &=& (\frac{-b + \sqrt{b^2-4ac}}{2a})(\frac{-b - \sqrt{b^2-4ac}}{2a}) \\
&=& \frac{1}{4a^2}(-b+\sqrt{b^2-4ac})(-b-\sqrt{b^2-4ac}) \\
&=& \frac{1}{4a^2}\lbrace(-b)^2-(b^2-4ac)\rbrace \\
&=& \frac{4ac}{4a^2} \\
&=& \frac{c}{a}
\end{array}
$$

である。【証明終了】

特に難しいことはなかった。授業でも習った気がする。だけど改めて自分で証明してみるとなかなかおもしろい。授業とはまた違った視点で物事を考えられる気がする。やっぱり自習って大事なんだなぁ。

窓の外からは夕暮れの柔らかな光が差し込んできていた。外の空気が少しずつ冷えてくるのを感じながら、熱心に問題と向き合うこの時間は、日常の忙しさから一時的に離れて、自分自身に没頭できる特別な時間である。

ちなみに、2次方程式 $${ax^2+bx+c=0\;(a \not= 0)}$$ の根の判別式を

$$
D = b^2 - 4ac
$$

と定義できる。$${D>0}$$ ならば異なる実数の根、$${D=0}$$ ならば等しい実数の根、$${D<0}$$ ならば二つの複素数の根を持つ。しかも互いに共役。この証明は私とあなたの宿題ということにしておこうかな。ちなみに互いに共役な複素数の和と積は共に実数となる。

$$
\def\arraystretch{2.0}
\begin{array}{}
(a + bi) + (a - bi) &=& 2a \\
(a + bi)(a - bi) &=& a^2 + b^2
\end{array}
$$

私は机の上に散らばったノートや書籍を整理しながら、今日一日の学びを反芻した。自分のペースで学ぶということの価値を再確認できたし、心の中には小さな達成感があった。自習は単に問題を解くだけではなく、自分の中に新しい発見や考えを生み出すための重要な時間であることを実感したのだ。嬉しいね。

私の部屋の隅には、まだ読み終わっていない書籍やこれから取り組む予定の課題たちが積み重なっていた。それらは次回の自習の時間まで、私を待ってくれている。だけど今はその課題を置いて一日の終わりを迎える。

私は深いため息を一つ吐きながら椅子から立ち上がり、窓の方へと歩みを進めた。夕暮れの空の色が徐々に深紅へと変わり始めている。遠くに見える街の灯りが一つ、また一つと点灯していく様子はまるで星が空に現れていくかのようだった。

「愛、ごはん」

お母さんの声が聞こえた。

「はーい」

私はノートを閉じるとリビングへ降りて行った。

第5話、おわり


参考文献① : 笹部貞市郎『定理公式証明辞典』
参考文献② : 結城浩『数学ガール』


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