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「I AM DEAD」感想:「覗き見る」という、新しい魅力


物を透かし、ありのままの姿を覗き見ることの魅力


RPGで宝箱を見つけたとき、どのようにして中のアイテムを手に入れるでしょうか。
箱を開けますよね。そうすると、視点はきっと主人公の視点。つまり、開けた宝箱を上から見下ろす視点になると思います。

何か物を見つけるというのは、そういう、「決まった視点」であることが基本です。

戸棚も、タンスも、宝箱も。開ける扉があるからこそ、その一方からの視点で中に入っている物体を視認することになります。

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しかし、そうではない物の見方もあります。
「透かして」見ることです。

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最近は違うかもしれませんが、空港での荷物チェックなんかは、X線でのチェックがされていましたよね。
また、病院で体に異常がないかチェックするとき、まさかいちいち手術して体を切り開いて、目で見て異常があるかどうかなんてチェックしませんよね。レントゲン、CTやMRIなどを用いて体の中をチェックします。

透けて物を見ることで、外からアクションを加えたものではない、純粋な形を保ったままの中身を見ることが出来ます。

そんな、透かして物を見るというメカニクスを利用したパズルアドベンチャー。それがこの「I AM DEAD」です。



物語

主人公のモリスは、小さな島の心優しい博物館館長。この島をとても愛しています。少し普通と違うのは、もうこの世を去っているということ。
死後の世界で、かつて飼っていた愛犬のスパーキーに出会い、会話を交わしていくうちに、一つの事実に直面します。

近いうちに、この島の火山が噴火してしまうということです。
スパーキーの話によると、この島を守ってくれていたガーディアンがいるものの、あまりに長い間守り続けたためにそろそろ限界であると。

噴火を止めるには、現在のガーディアンの代わりになる人を探さないといけません。それは、既に亡くなった人でないといけないのです。
そして、亡くなってから一定期間が経過した人でなければガーディアンにはなれません。主人公のモリスでは、まだ足りないのです。
亡くなった人からガーディアン候補を探さないといけません。

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この島を守るため、モリスはこの世を去りながらも、愛犬のスパーキーと島中を奔走していくのです。

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ゲームシステム

基本的なゲームの流れとしては、亡くなった人の思い出を探し、そこから形見を見つけるという流れになります。

まずは既に亡くなった人にフォーカスを当て、その人の形見を探すことになります。

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しかし、最初は何が形見かもわからないので、写真のピントを合わせるように、記憶のイラストを正しいものに調整することで、物語が進んでいきます

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左側のバーを操作し、絵柄を調節します。

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上下の案内が出るので、調整自体は難しくありません。

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ぴったりと絵柄が合うことで、話が進みます。
そして何度かこのミニゲームを繰り返すことで、亡くなった人の「形見」がわかります。


形見が判明したら、今度はその形見を街の中から探していきます。
レントゲンのように物体を透けて見ることで、隠された中身を探し、形見を見つけていきます。いくつかスクショを貼っておきますが、この透けて見るシステムが本当に面白いんです。

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大体マップのほとんどの物に対してインタラクト可能。
あらゆるものを透かして見ることが出来る。

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ボードゲームに近づけば、箱の中身がわかります。


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バッグの中にはたくさんのカップケーキ!


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冷蔵庫の中には様々な食材。

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スイカも透ける=断面が露わになります。


このようにして、物に触れるでもなく、断面を覗く感覚で形見という宝探しを行っていくのです。

全ての形見が揃ったのち、死者とコンタクト。ガーディアンになってくれるよう頼みます。

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これを繰り返していくことになります。




「覗き見る」面白さ

物を見るとき、物を探すとき、前提としてあるのは、見えるのはあくまで物の「外側」ということ。
先のボードゲームのスクショでもそうですが、箱に入った物は、ボードゲームの外箱という「外側」を物理的にどけないと、ボードゲームという「中身」を見ることが出来ません。

そして物はそんな単純に見ることが出来るものだけではなく、密閉された場所や、なかなか見えにくい場所にあることもあります。また、物の中身を見ようとすると、その物自体の崩壊を招いてしまうといった物もあります。

こと、このゲームで用いられている「覗き見る」という手段は、それらのプロセスとは別ルートで物体の内側を発見します。
このシステムを用いることで、自分の中に「こういった行動にも面白さを感じるんだ」という発見がありました。

特に刺激を受けたのは、冷蔵庫の中に入っていた食べ物の「パイ」を覗いた時です。

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例えば、もしこのパイの中に探しているものがあった場合。そうですね、では「このパイの中に指輪が入ってしまったので、探し出して下さい」と言われた場合。
スプーンを使って中身を掘り出したり、ナイフで半分に切ったりと、どうにかして目で見えるような形にするのではないでしょうか。
そしてその時点で、「パイ」という物質は、丸い形が崩壊していくのです。物が詰まっている中からまた別の物を探し出すというのは、このように破壊を伴うことがほとんどだと思います。

そこで、このゲームです。
「覗き見る」という性質から、物質を破壊せずに中身、断面を見ることが出来るのです。

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形を崩さず、パイの中に入っている野菜までしっかりと見ることが出来る。
よくよく考えれば、こういった形で物を見ることはほとんどなかったことに、プレイしながら気づきました。

特に、液状の物であればなおさらです。
このゲームには何度か魔法瓶が出てきますが、もちろんそれらも断面を透かして見ることが出来ます。液体の中身を、魔法瓶の蓋を外して見るでもなく、コップに注ぐでもなく知ることって、一度もなかったんですよね。
では液体はどのように外から中身を判別していたのかと考えると、汎用性の高いペットボトルは透明だし、それ以外の物はラベルやパッケージで、一目で中身がわかるような形になっています。

しかしそれはあくまで、「なんの液体が入っているか」を判別するもの。
先ほどと同じく、例えば「ここにペットボトルに入った10本のコーラがあります。この中の1本だけに小さな指輪が入っています。それを見つけ出してください」と言われたら。誰でも、ペットボトルのコーラを捨てて、指輪を探し出すのではないでしょうか。というか、ほぼそれ以外の正解は無いですよね。

それをしなくていい、つまり我々がもっている一番手っ取り早く合理的な手段を用いず、物を見ることが出来る。そこがこのゲームの気持ちよさ、そしれこのゲームでしかできない「体験」であったと思います。

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粋なテキスト

このゲームは形見を探すのがメインであり、そこに一番時間が割かれます。そのため、数多くの物に対してインタラクトできるようになっています。
それぞれの物に対する説明文がちょっとだけ表示されるのですが、それがまたオシャレというか粋なんですよね。特に、この「靴とコート掛け」の説明文が思わず唸ってしまいました。

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「一番初めの、あるいは最後の立ち寄り先」


これはもちろん機能的な意味でもそうなのですが、このどこか文学的な表現の仕方、思わず切なさを感じてしまいました。
こういった小さな、細かいところでゲームに魅了されること、あるんですよね。

また、このゲームはゲームの目的上、故人にフォーカスした会話は多いのですが、舞台となっている島自体や住人について説明する会話はあまりなかったように感じます。
そこを補完してくれるのもまたこのテキストであり、雰囲気を感じ取るための演出として機能していました。これにより、どのような島で、どのような人物が生活しているのかがわかり、ただのモブキャラクターにも色がついてくるのが、まるで真っ白な塗り絵に少しずつ色が塗られていくような感覚でした。

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時間軸の話

「覗き見る」という特殊なルールを前面に出しつつ、死した後に自分の住んでいた町を守るために行動するという物語。
ここで発生してくるのが、時間軸という視点です。

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勇者が魔王を倒すのは、これからの未来を救うため。時間軸としては現在から未来です。
しかし、このゲームは未来を救うのはもちろんですが、故人の協力を得る必要があるため「過去」という時間軸も加わってきます。
詳しく書くとネタバレになるのですが、故人の形見を探す過程で、故人と親しかった人が、その人に対してどのように考えていたのかがわかってきます。それは、一般的な評判と同じものもあれば、「実はこういう人だった」と感じるものもあります。

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過去にどのようなことがあったのか、どうしてこの人は島の人にこのような評価をされているのか。その原因と結果がわかるのは、今と未来だけではない時間を把握することが出来るからこそであると思います。

また、かなり大きなネタバレになるので詳しくは書けませんが、終盤には過去に大きくフォーカスされるような仕組みになっており、非常に気持ちのいい、面白い時間軸の使い方を感じました。




終わりに。

アンナプルナがパブリッシャーなだけあって、やはり非常に新鮮、今まで味わったことの無い体験が出来た作品でした。

物を覗き見るという行為がここまでワクワクするとは思いませんでしたし、ただの宝探しでは退屈になりがちな部分を見事に飽きさせない作りにしていました。画面に物がたくさんあるほど、そして外側からは中身がわからないものほど、ワクワクしていました。

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何より、主人公のモリスの穏やかで優しい性格、献身的な様子と、このゲームのシンプルで人形劇や絵本のようなアートワークが非常によくマッチしていて、ゲーム自体の穏やかさ、優しさを醸成しているのがとても好みでした。

死というショッキングなイベントを経た登場人物が多いはずが、みんなそこにはあまりフォーカスを当てておらず、まさにただの通過点であったというような印象を持っているように感じ、悲愴さもほとんどなかったのも、プレイしていて印象深かったです。

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クリアまで約6時間でした。
やりこみ要素もあり、このプレイ時間も少々やりこんでのクリアだったため、純粋にクリアを追うだけなら4~5時間、やりこむなら8~10時間は楽しめるのではないでしょうか。

宝探しゲームとしても面白いですし、物語もおまけ程度でなく深いものでしたし、おすすめできます。
もちろんどちらかというと「体験」がメインなため、しっかりとした喜怒哀楽という感情の揺さぶりは難しいかもしれませんし、もしこの物体を透かして見るという体験が合わなければ全く続けることが出来ないゲームだと思います。
しかし、そこに少しでも面白さを感じることが出来れば、飽きずにクリアできるゲームだと思いますので、雰囲気と新たな体験に興味があればぜひプレイしてみてほしいですね。個人的にはかなりおすすめの作品でした。

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