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「CG・スチル1000枚超」ハイスピード物量傑作アドベンチャーゲーム「マルコと銀河竜」感想

物語の圧倒的なスピード感とアニメーション、CGの物量および質の高いサウンドで、眩しいほどの輝きといつまでも続く余韻を残す、流れ星のようなゲームだった。

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メインの物語のネタバレには気を付けるものの、完全に前情報無しでプレイしたい方は是非クリア後に読んでいただけると幸いです。また、公式Youtubeの序盤プレイ動画等も含まれているのでご注意を…。


2020年2月28日発売。
定価7,800円。STEAMのセールで15%オフの6,630円で購入。
「ノラと王女と野良猫ハート」のスタッフによって制作された作品とのこと。

ノラとと本当に好きなので惹かれちゃってた。俺はゲームタイトルが明朝体で書かれた作品に弱い…。


ストーリー

記憶喪失の孤児であるトレジャーハンターのマルコ(CV:井澤詩織さん)が、アルコ(CV:吉田有里 さん)という名の銀河竜(銀河を統べるドラゴン)と宇宙で宝探しをしているんだけど、マルコはその途中で自身の母親の手がかりを見つける。
そして母親を探しに、地球へ向かい、様々な出会いやトラブルに巻き込まれ…という話。

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どこか気だるげなマルコ、竜になったり人間の女の子の姿だったりしているもいつもお腹を空かせているアルコの二人を中心に物語が進むんだけど、この二人の関係性が凄く良い。とある二人の間の理由もあるんだけど、なんというか、信頼し合っている感じ。

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そんな二人、そして知り合うキャラクターが繰り広げるドタバタ日常コメディが中心なんだけど、もちろんマルコが母親を探すという話が軸にあって。そして他のキャラクターの話も絡んできて…というストーリー。

メインの二人以外のキャラクターも個性的。個人的にはこども市長が可愛くて好き。

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可愛い~~



ゲームジャンルはノベルゲーム、読み物系

このゲームはアクションでもシューティングでもFPSでもなくて、アドベンチャーゲーム、その中でも特に「2Dイラストを背景にテキストが表示されて、プレイヤーがそれを読む【ビジュアルノベルゲーム】」に分類されるところ。

ちょっと違うけど、シュタインズ・ゲートやときメモ、DDLCなんかが分かる方はなんとなーくゲームの見た目の印象はそんなイメージで。2Dのエロゲーやギャルゲーをプレイしたことがある方はそのような感じで。
他のジャンルで言えば、逆転裁判の、操作・裁判パートが無く物語が進むような。十三機兵防衛圏の、崩壊編が無く、追想編でもキャラクターを動かすことが出来ないような。そんなイメージ。

まあこの辺は動画を見てもらえればわかるんだけど、イラストを背景に読んで物語を追っていくって感じ。
なので、「ゲーム性」という意味ではかなり薄く、また今作は選択肢やルート分岐もほとんどないので、読み物に近い。自動でどんどん話が進んでいって、プレイヤーはそれを一緒に体験するような感覚。

正直、割引セールで買ったものの明らかにおま値なので他国に比べると半端なく割高。
このせいで、気にはなっていたもののずっと手を出せずにいました。
今回のSTEAMセールを逃したら当分割引なさそうだな…と思い購入。
(おま値…なぜか日本国内だけ商品の値段が高いこと。他国は半額以下)


プレイ時間とボリューム
クリアまではどのくらいだろう。アドベンチャーゲームのセリフを飛ばすか飛ばさないかで変わってくると思うけど、自分は文字を読み終わったらボイスが途中でも飛ばすタイプ。
起動しっぱなしで放置してた時間もあったけど、それも含めてSTEAM上のプレイ時間は5時間って表示されてるので、まあ多分そのくらい。オートモードでしっかり話を聞いて10時間くらいっぽい。

だから、値段に対するボリューム的には大分少ない印象はあります。PS4やswitchのフルプライスゲームと同じくらいの値段だからね。

セリフはフルボイス。マルコもアルコも魅力的な声です



ゲームに何を求めるか

「普通のゲーム」を期待している人はこのゲームやめておいたほうがいいかも。ここでいう普通っていうのは…FFとかドラクエ、モンハンとかウイイレとかポケモンとかマリオとか。
いわゆるメジャーなカテゴリーからはかなり外れているゲームだと思う。この辺はPVやデモプレイ動画なんかで自分に合いそうかどうかは判断したほうが良いと思う。

ゲームに何を求めるかっていうところを一旦考えたほうがよくて。
暇つぶし、対戦、爽快感、努力の報われ、物語の感動、現実逃避、色々あると思うけど、このゲームが一番もたらしてくれるのは「圧倒的なスピード感という体験」っていうところじゃないかなと思う。



得られる圧倒的なスピード感
凄く曖昧なんだけど、「マルコと銀河竜」をプレイして、クリアした後には「マルコと銀河竜のスピード感あふれる物語展開」を体験出来た、という感覚が残ると思う。
この「ノベル系のゲームでのスピード感」っていうのが、もうなんて言うか初体験で、吹いてきたと思えばはるか遠くまで過ぎ去っていく強風のようなプレイフィールがとても強く心に残ってる。

一体そのスピード感ってなんなの?っていうところだけど、これはおそらく、話の展開の早さと、イラストの多さおよび移り変わりの早さ。
この2点から、似たジャンルの他のゲームより圧倒的なスピード感が生み出されていると思う。


スピード感あふれるゲーム展開について

話の展開
ストーリー展開はかなり早い。その分、物語上半ば説明不足感があるところはあるけど、それはどちらかというと話の本筋から外れた部分が多い。

例えば、宇宙を舞台にしているけど、酸素はどうとか、エネルギーはどうとかっていう話はほとんど出てこない。もうファンタジー。原付が空飛んだりするし。

でもまあそれはそういうものとしてそっとしておく。なんていうか、ちょっとした設定に細かい説明があれば物語の濃さと言うか説得力、拡がりなんかも出てくると思うけど、その分一旦物語のスピードを落として、プレイヤーは立ち止まらないといけないわけで。

もうね、立ち止まらないんだこのゲームは。ずっと走ってる。走りながら説明してるから、説明されるのは重要な部分だけ。で、走りきって別の場面に移ったら、もう過去の場面の話はされなかったりする。


ただ、物語の芯の部分…マルコの母親探しという部分はぶれてない。
余分な設定がそぎ落とされた分、メインの物語はシンプルにぶれずに進んでいく。だから、物語の本筋からよそ見をすればもっと掘り下げられそうな設定がちらほらあるけど、そこはそんなに重要じゃないんだよね。

シンプルに、マルコの気持ちと目的が一貫しているから、ゲーム上必要な本当にメインの部分での話は混乱したりはしなかった。
逆に言えば、そのマルコの話に絡んで別の要素が動いている、という感じ。

サブキャラクターは、それぞれマルコの持っている宝を奪いに来たり、地球を守ろうとしたり、別のキャラクターに復讐しようとしたり。各キャラクターのメインストーリーとして、マルコをハブとして絡んでくる。
このあたりの、マルコは話には絡むけど各キャラクターの中での最重要人物では無かったりするバランスは、各キャラクターおよびそれぞれの物語が独立している印象を強く感じられる良い設定だった。

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サブキャラクターが色々と絡み、展開が早くスピード感あふれつつも、マルコの物語のしっかりとしたベクトル自体はずれていない。
退屈にならず、集中力が途切れなかった印象はとても大きい。


変な例えだけど、ジェットコースターに乗りながら周りの景色気にするかどうかってこと。
気にしないよね。ジェットコースター乗りながら「あ、あそこに犬みたいな形の雲がある」とか、「あれ、あそこの従業員めっちゃさぼってる」なんて思わない。
だからまあ、細かいことはいいかなって。

ちょっと疑問に思ったとしても、「それはそういうもの」ってあんまり意識せずに、勢いに身を委ねること。それがプレイヤー=ジェットコースターの乗客が取るべき姿勢かなと。いちいち気にして止まってたら、ジェットコースターの醍醐味、失われちゃうし。

日常のギャグパートもハイスピードで面白く、退屈しない



圧倒的な物量のイラスト
そのジェットコースター感をさらに増長されているのが、CG・スチルの移り変わりの早さ。
これはもう色んなメディアで言われているけど、このゲームはCGとスチル合わせて1000枚超が使われている。めちゃくちゃ多い。

だから、場面場面において、アニメを見ているように様々なカットが用いられている。もしかしたらシナリオ上で冗長な表現があったかもしれないけど、この背景が、場合によってはセリフ一言で変化したりするものだから、視覚的に飽きがこない。

この各国のイラスト、他のシーンではほぼ使われてません、贅沢!


どんどん新しい情報が目から入ってくるので、キャラクターの動きが分かりやすく、またセリフも入ってきやすい。もちろんキャラの立ち絵でセリフの掛け合いがあるシーンもあるものの、話の展開の早さからか、退屈することは無かった。

特にこのゲームならではだなと思ったのは、とあるシーンで因縁の2人のキャラクターが対峙する瞬間のこと。
多くのゲームは、例えば2人の立ち絵を用意して会話させたり、対峙している一枚絵を表示して会話させる、なんていう演出がされるのではないのかなと思う。

しかしここでこのゲームでは、片方のキャラクターの右向きの足元のイラスト→もう片方のキャラクターの左向きの足元のイラストという流れで表示し会話をさせた。それぞれの足の角度は、心情にリンクして傾いている。
その後二人が向き合っている遠景のイラスト、対峙しているイラストで物語を演出していたけど、この「わざわざ足元を表現した」というところがとてもアニメ的というか、映像を見ているような感覚。

短いシーンではあるものの、これも物量、細かく分けられた場面ごとのイラストで表現されたことによって、ただ1枚絵で表現されるよりもキャラクターの心情が伝わるシーンだった。



ゲームのワクワク感を彩るアニメーション演出

あと絶対に触れないといけないこのゲームの魅力は、物語の要所要所に挿入されるカートゥーンアニメ。
もう本当にアニメ。デフォルメされたキャラクターが、その瞬間のストーリーの流れのままカートゥーンアニメとして物語を展開する。

その回数は盛りだくさんと言えるほどではないけど、アニメシーンになったときのワクワク感は…例えるなら初代PSのRPGで、それまでポリゴンを動かしていたのに重要なシーンでCGムービーになったような感覚。きたきた…始まった…!っていう特別感があった。

そしてそのアニメがカートゥーンなので、動きがコミカルで派手、まさに縦横無尽。そして、リアル寄りのビジュアルではない分リアルでない演出の違和感もない。数分間のアニメーションはとても見ごたえがある上、時にそのアニメ演出方法は突飛なものもあって…これは是非プレイして体験してもらいたい!



イラストとストーリーのスピードに音楽が加わり、物語が完成

そして物量で攻め立てるスピード感を演出している音楽もまた最高。
チップチューン感が漂う曲も、しっとりとしたボーカル曲も物語を盛り上げていく。
でもやっぱり、テーマソングである「飢餓と宝玉」がとても素晴らしい。軽快なロックに合わせてのkonoreさんの明るくて可愛くも、一歩後ろに下がって歌っているような控えめ具合が絶妙で、曲調も歌声も本当にクセになって何回も聞いてしまう。サントラ、買います。


全体としての感想

前述した通り、とにかくスピード感が凄い。
だからこそ、人によって合う合わないははっきりするだろうし、国内から買うとすると決して安い金額ではないし、ボリュームも少なめなので自信をもって万人にはお勧めが難しい。
ゲームというよりは、オリジナルアニメのような感覚で購入するのもひとつありかもしれない。

ではゲームとして良くない作品なのかと聞かれれば、全くそんなことはない。
好き嫌いは分かれると思うものの、自分としては購入して損したという気持ちには全くなっていない。むしろ、こんな体験を出来たことに感謝さえする。

客観的な評価であれば、STEAMレビューは「圧倒的に好評」であり、1554件のユーザーレビュー中98%が好評を選んでいる。(2020/5/4時点)

破天荒ではちゃめちゃ、多少説明不足な物語なものの、物語を通して伝えたいこと…どこかふざけているストーリー展開ながら、主人公マルコ、相棒のアルコ、そして出会う人々や家族についての一貫したテーマは後半に生きてくる。愛や希望を用いたこのゲームなりの表現については、思わず物語に引き込まれた。

日常パートも面白く、思わず笑ってしまうシーンも多々。
マルコやアルコでは出せないサブキャラクターの魅力も十分。

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本当に好きなキャラばっかり


途中の展開や伏線、エンディングは、予想できる人は予想できるものであり、とんでもない超展開ではないのかなと思う。展開にご都合主義感はあるものの、元々このゲーム自体が破天荒で賑やかなせいかそこは特に目立って浮いているものではなかった。

逆に、ゲームの中でテーマとされているであろう家族愛や友情といった要素が、ある意味このゲームの中で教科書的な真面目さ、王道さを際立たせており、いい意味で「浮いている」終盤からラストシーンだと思っている。後半から終盤のマルコやアルコの物語は思わずぐっときてしまった。

スピード感も、特に終盤や物語の核心部分については丁寧にスピードダウンしている部分があり、感傷に浸れるような、美味しいところはしっかりと味わえるような作り。ギャグパートや日常パートのスピード感との区別が明確で、物語上重要な説明の取りこぼしや不足感は感じなかった。

このようにスピードもいつの間にかコントロールされ、重要シーンでの高速道路から一般道へ入った時のようなスピード感の落差もまた面白かった。そしてそういった区別がまた、ゲームの中のスパイスとして生きていた。

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終わりに

台風のように荒れ狂いながらもそこに体を委ねれば、必ずノベルゲームの新体験ができるゲームだと思うし、ゲームをクリア…つまりその台風が過ぎ去った後には、どこかその荒れ狂ったスピードの物語をもっと体験したかったなと思うはず。

キャラクター、音楽、ストーリー、テンポの早さ。粗が無いと言えば嘘になるものの、このゲームは明らかに「粗が残るのをわかりつつスピードと勢いにステータスを全振りしたゲーム」のように感じる。

いや、逆に言えば、この圧倒的なスピード感を形成するためにイラストや音楽がバックアップしているとも言える。物語だって、きっともっと濃密にボリューム多くキャラクターなどを描いたとすれば、感動の度合いは深まるものであるテーマや仕掛けだと思うものの、それだとこのゲームの良さ・特徴が薄まってしまうなとも思う。


そして、このゲームを体験できたことでひとつゲームの視野が広がったのは確か。
何より、ノベルゲームにあるまじきスピード感で魅力あふれるマルコやアルコの旅を体験出来たことは本当に嬉しい。
特異な人生を送ってきた人間のマルコ、銀河を統べる竜であるアルコという、全く異なる二人の物語。その違いがあるからこそ、二人の友情やお互いに対する思いやりが共通項となり、ゲームの芯となっていた。

この、様々な要素が一気に台風のように絡み合いどんどん物語が展開する中での、台風の目のように中心となっている二人の関係、物語が確固としているストーリー展開は、見事であり強く余韻を残すものだった。

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結果として、傑作としか言えないゲームだった。



是非とも続編を期待したい。まだまだ、キャラクターがどんな生き方をしていくのか、特にエンディング以降の話も知りたい。
もちろん現時点では続編を制作するのかどうかすら全く未定だと思うけど、そんな嬉しい発表がいつかされることを期待して、蕎麦でも食べながら待ち続けていようと思う。

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