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905回目:【経済】半導体産業〜エヌビディアとTSMC〜

2023年02月24日の備忘録

2024年02月22日、米半導体大手、エヌビディアの好決算に端を発した株高の波が世界の主要市場に及んでいる。日本では日経平均株価が34年ぶりに最高値3万9098円を更新し、22日に欧州の主要株価指数も2年ぶり最高値を付けた。また日本では、台湾の半導体製造メーカー「TSMC」が熊本の菊陽町に第一工場の建設が昨年末完了し、2024年末に生産が始まる。日経新聞では、昨今やたらと「半導体」「AI」「エヌビディア」「TSMC」「熊本」という言葉を目にするため、興味を持った私は少し勉強してみることにした。

【1】半導体とは

半導体とは、電気を良く通す金属などの「導体」と電気をほとんど通さないゴムなどの「絶縁体」との、中間の性質を持つシリコンなどの物質や材料のこと。原料は「珪石」で、珪石から不純物を除去し純度を上げて作られた板が「シリコンウエハ」。そのシリコンウエハをベースに作られた集積回路が、CPUだったり、GPUといわれている。CPUとは、Central Processing Unit の略で、コンピュータの制御や演算や情報転送をつかさどる中枢部分。中央処理装置。一方、GPUとは、Graphics Processing Unitの略で、画像処理装置を意味する。

CPUとGPUの大きな違いは「コア」の数。「コア」とは、処理作業を行うCPUの中核となる部分のこと。CPUのコア数は、数個から十数個である一方、GPUのコア数は15000個らしい。GPUが定型的かつ膨大な計算処理を行うのに適している一方で、CPU はコンピューター全体から送られている情報をまとめて処理することに長けている。

今後の世界は、「インターネット」と「電気」を使ったディバイス社会となる。スマートフォンと電化製品が繋がる「IoT」、「自動運転」、「EV」、そして「AI」が世界を変える。よって、各々のディバイスには、大量の電気を同時に処理する能力が必要となり、それが半導体となる。

【2】エヌビディアと、TSMC

NVIDIA(エヌビディア)とは、パソコン向けのグラフィックスチップ(GPU)や、これを応用した人工知能向けチップなどの半導体製品における世界的大手の一角。 LSIロジックを退社した台湾生まれのジェンスン・フアン(社長兼CEO)が、1993年にクリス・マラコウスキー(Chris Malachowsky: 副社長)らと共に創設。本社は米カリフォルニア州サンタクララ。 世界のGPU市場の約80%を占めている。現在、AI企業やテック企業が、エヌビディアの一台500万円以上するGPUを大量に購入を進めており、エヌビディアの時価総額が上昇している。しかし、エヌビディアは半導体を実際には作っていない。彼らは、「設計」を行っている。エヌビディアの半導体を実際に作っている会社が台湾のTSMCだ。

「Taiwan(台湾) Semiconductor(半導体 Manufacturing(製造業) Company(会社)」の頭文字をとったのがTSMC。半導体をつくる台湾の会社で、1987年に設立された。顧客の注文を受けて半導体をつくり供給する受託生産「ファウンドリ」を行うのが特徴だ。「ファウンドリ」とは、発注元の半導体メーカから設計データを受け取り、その設計に沿って半導体チップを製造する。最先端の半導体チップの製造設備には莫大な投資が必要で、新しい製造技術を開発するにも研究費用が必要になり、開発周期も短いため、かなり大規模に半導体チップを製造するメーカでないと半導体ライン(ファブ)を自社で持つのは難しい。ファウンドリはこのような製造設備を持たないメーカから半導体チップの製造を請け負う企業で、大量の半導体チップを1社で製造することで効率よく設備の運営や研究開発を行えるようになる。TSMCは、半導体製造「ファウンドリ」の中でも、「微細化」と言って、とても小さく半導体を製造する事に群を抜いている。

TSMCは世界の半導体製造の約56%を占める巨人。時価総額はトヨタ自動車の1.5倍を誇る。

【3】世界の半導体市場はUSA対中国

現在、半導体産業を巡りアメリカと中国が対立している。バイデン米政権は2023年10月17日、米半導体大手エヌビディア(NVDA.O), opens new tabなどが設計したより高度な人工知能(AI)用半導体の中国への輸出停止を計画していると発表した。中国政府が軍事強化のために米国の最先端技術を入手するのを阻止することを目的とした措置の一環という。つまり、エヌビディアの半導体を実際作っているのは、台湾のTSMCであり、中国が台湾統一を目指す一つとして、TSMCも中国側に取り入れたいのも一つの目論見か?

【4】TSMC熊本工場

TSMC熊本第一工場

2021年秋の計画発表から2年余り、世界最大手の半導体受託製造TSMCの第1工場(熊本県菊陽町)がついに2023年末完成し、2024年末に製造スタートとなる。続けて、2027年末製造スタートを目標に、2024年02月06日には第2工場の増設も正式発表され、先端品の第3工場も検討中のようだ。これが契機となって九州では多くの関連企業が設備投資を計画しており、その波及効果は10年間で20兆円を超えるとされる。半導体の重要性が増すなかで、王者TSMCがなぜ日本に進出したのか。それは、3つあると報道されている。一つ目は、経済安全保障。台湾有事の際に備えたもの。二つ目は、血熊本の地下水。九州はシリコンアイランドと言われるほど地下水源が豊富で、きれいな水を大量に必要とする半導体製造に適していた。三つ目、ロジスティクス。熊本高速道路などサプライチェーンの構築に適しているらしい。

そして、2024年03月08日の報道では下記の記事も上がった。

日本進出の理由は「アップルの要請」

台湾メーカーが工場の「脱出先」として日本を目指すのはなぜか。TSMCの魏哲家・最高経営責任者(CEO)はある講演会で、熊本の第1工場の建設理由について「サポートせねばならない顧客がいるためだ。その顧客は当社の最も重要な顧客のサプライヤーでもある」と語ったことがある。名指しを避けているが、これは「米アップルに画像センサーを供給しているソニーに協力するため」という意味である。

ソニーは菊陽町の工場で画像センサーを生産し、アップルのスマートフォン「iPhone」のカメラ用に大量供給している。センサーは画像データを処理する「ロジック半導体」と重ね合わせて使う。TSMCはソニーにロジック半導体を供給してきたが、アップルはサプライチェーン(供給網)を強靭(きょうじん)化するため菊陽町で生産することを求めたようだ。TSMCにとってアップルは売上高の約2割を占める最大顧客であり、要請に応じた。

TSMCが熊本工場の運営子会社であるJASMにソニーの出資を受け入れ、画像センサーと重ねやすい回路線幅22~28 ナノメートル(nm)のロジック半導体を生産すると決めたことにはこんな背景があった。日本ではこのスキームが発表された2021年10月、TSMCが最先端から10年ほど遅れた線幅の半導体を生産品目とすることに不満の声も出たが、これも誤解である。JASMは22年2月にはデンソーからの出資受け入れも決め、第1工場は自動車用の12~16ナノ半導体も生産することになった。(https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00988/)

経済・ビジネス 2024.03.08

【5】熊本TSMCバブル到来

熊本のアルバイトの最低時給は895円。一方で、TSMC熊本工場でのアルバイトは、資材管理業務で時給1900円、社員食堂勤務で時給1300円だ。熊本工場周辺のレストランや居酒屋、そして、ホテルは売上2倍、3倍となり、バブルが到来している。熊本の菊陽町では、TSMCに出社する社員が無人駅に続々と出勤する光景がテレビで映され、その長蛇の通勤ラッシュは1時間続くという。

【6】日本政府援助

TSMCが熊本県菊陽町に建設した半導体工場は、投資額がおよそ86億ドル=日本円でおよそ1兆2900億円に上り、半導体を経済安全保障上の重要物資と位置づける政府も最大で4760億円を補助。政府は第2工場にも最大7320億円を補助することを明らかにし、安定供給の確保に向けて、国内生産を後押している。

【7】まとめ

何故、私がTSMCの熊本工場に注目したかというと、その先の産業の展望が明るいからだ。先に説明したGPUを生産するエヌビディアは、世界のGPU市場の80%を占めるマーケットシェアを持つ。本社はアメリカで、現在アメリカと大手AI企業、テック企業、EV企業、自動運転企業からの需要が今後明らかに高まるとされている。だから、株価が上昇している。しかし、そのGPUは、実際は台湾のTSMCに製造委託されている。そのTSMCは半導体業界では、約60%のマーケットシェアを持つ巨人。その工場が日本に建設されているという事。つまり、日本が半導体製造大国になる可能性を秘めている。

これ程、日本の未来を明るくしたニュースはあっただろうか。近年で見たニュースの中でも最も明るい産業のニュースに見えた。

【7-1】エヌビディアの直近の動向

  • 2023年11月、次世代GPU「GeForce RTX 40」シリーズを発表

  • 2024年2月、データセンター向けAIチップ「Grace Hopper」を発表。

  • メタバースやAIの成長により、今後も高性能なGPUの需要が拡大していく見込み。

【7-2】TSMC熊本の動向

  • 2023年12月、熊本工場の第1期工事の完了を発表

  • 2024年3月、熊本工場で量産開始予定。

  • 2025年、熊本工場で5nmプロセスを用いた半導体製造開始予定。

  • 熊本工場は、TSMCにとって海外初の最先端工場であり、世界的な半導体不足解消に貢献する期待。

【7-3】熊本

  • TSMCの熊本工場建設により、地域経済の活性化が期待されている。

  • 半導体関連企業の誘致が進み、新たな産業クラスター形成を目指している。

  • 熊本大学は、半導体人材育成のための「半導体教育・研究センター」を設立。

  • 人材育成やインフラ整備など、課題も残るが、半導体産業の拠点として発展していく可能性。

【7-4】エヌビディアとTSMCの関係

  • エヌビディアは、TSMCに最先端GPUの製造を委託している。

  • TSMCの熊本工場は、エヌビディアの次世代GPUの製造拠点となる見込み。

  • 両社の関係は、今後も深まっていくと予想される。

【7-5】今後の展望

  • エヌビディア、TSMC、熊本は、それぞれが成長を続けていくと予想される。

  • 三者の連携により、半導体産業の発展と地域経済の活性化が期待される。

  • TSMCだけで無く、オランダのASML社は北海道を製造拠点に検討

  • かつて1980年代に日本が牽引した半導体産業。1990年代以降、韓国のサムスンやアメリカのインテルに市場を奪われた。しかし、今一度の日本が半導体製造拠点国になる可能性がある。

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