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百字小説㉛~㊵いっき読み ▶幸福


㉛「シャバ」

一年ぶりのシャバである。それほど変わらない地元に私は心入れ替え立っている。しかし外見は変わらない。誰彼も忌避する私の存在。そりゃそうか。ゾンビの見た目じゃあいくら善良市民の心を取り戻したとしても……。
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㉜「植木鉢」

私の家には植木鉢が一つ。毎日ジョウロで水をやっている。手に塩かけて育てている自負がある。しかし夏も終わりなのに植木鉢を覗き込んでも腐葉土しか拝めない。カブトムシの幼虫、早く成虫になって出てこないかな。
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㉝「味」

友好的な宇宙人が我々地球人に振る舞ったのは彼らの宇宙食であった。それは口にいれた瞬間にとろけて旨味が広がる筆舌尽くせぬ極上の味であった。これ以来、我々は地球の食を眉間にシワを寄せて食べるようになった。
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㉞「2時」

時計を見るともう2時であった。タイムリミットまで1時間と迫っている。テキパキとやったつもりだったんだけどな。裏山で掘った穴、このサイズで足りるかな。やはり薄暗いところで仕事をしていると時間感覚が狂う。
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㉟「薬」

私が作り上げた薬は服用者の心臓の動悸を激しくさせる。これを意中の相手に飲ませれば吊り橋効果を狙える。媚薬のようなものだが恋に落とさせる薬ではない。だからこそ恋愛リアリティーショーにはうってつけなのだ。
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㊱「夢」

息子には夢の中にいると思い込ませる催眠を受けて貰った。これで引っ込み思案の彼も思い切った行動に出て良い青春を送れると思って。しかし夢は恥のかき捨てなのか非行に走るようになった。ああ、夢であって欲しい。
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㊲「帰宅」

失敗したため家に帰ることとなった。気まずくて開けにくい玄関の前で立ち尽くしていると母がゆっくりと顔をのぞかせ涙ながら出迎えた。家に上がると父が食卓に真っ赤に腫れた顔で座っていた。今日は自殺帰りなのだ。
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㊳「ディスプレイ」

体にディスプレイを埋め込む時代。用途は腕に埋めて時計にしたり日替わりタトゥーにしたりと様々。最近は画質の向上もあり顔全体に埋め込んで理想の顔になれる。今や街中ですれ違う人は皆、漫画の世界の住人である。
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㊴「復元」

都市開発が進み自然が無くなった。地上に存在する動物は我々のみ。我々は自身の行動を悔いて絶滅種の復元を行っている。最近は博物館所蔵の書物をもとに我々の近縁種であるホモ・サピエンスの復元計画が進んでいる。
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㊵「公共料金」

メールが届いた。開いてみると先月の公共料金の明細であった。水道代もガス代も電気代も日に日に高くなっている。物価高騰の波は空気代にも。宇宙コロニーに住んでいると微生物代もかかるし、太陽光代もかかる……。
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▶幸福

暗がりの帰路。正面から来た国民幸福委員は「薬いかがですか」と尋ねた。不幸感でいっぱいの私は躊躇なく薬を受け取った。服用すると意識がぼやける。体の底から私でない人格が湧き出てきて活力とやる気がみなぎる。
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