途中退場とロマンスカー

この間、好きなバンドのライブに行った。オールスタンディングだった。コロナの感染対策として収容人数を減らしてるらしいが、十分すぎるくらいに人が多かった。背の順の通じない並び方のため、ステージが何も見えなかった。

音楽を聞きに来たんだから、ステージが見えなくてもいいか!と開き直りたい私と、なんでお金を払って人の背中を見てるんだろうという私がせめぎ合う。

前の人の背中を見ながら、その日のコーディネートをどうやって決めたのかを想像する。気温に合ったちょうどいい服装をしたけど、ライブハウスがこんなに暑くなると思わなくて、ヒートテックを着てきたことを後悔してそう。ヒートテックだと上着と違って後戻りができないし。

妄想で気を紛らわせていると、今度は後ろの腕が頭にあたった。ステージに夢中だからか、その人は特に気に留めてなかった。多分、気に留めてはいけない空間なんだと思う。感覚過敏な私にとって、この空間はハードルが高かった。もう出よう。そう決めて、会場を出た。電車は帰宅ラッシュと重なって、第二回ライブハウス状態になった。毎日乗っている人は、全員アスリートだと思う。新宿駅に着いて、乗り換えをした。構内を歩いていると、歩きスマホをしている人がぶつかった現場を見た。片方のスマホが駅の床に叩きつけられて、その横をスマホを見てる人が通り過ぎていった。彼らはやっぱりアスリートだった。

もう電車に乗る力がなかったから、ロマンスカーで帰ることを決めた。ゆったりとした席で聴く音楽は格別だった。そのとき、ライブを楽しめなくても別にいいと思った。

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