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書評

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#ハードボイルド

書評 #47|小説 孤狼の血 LEVEL2

 残酷な殺人事件から幕は開く。警察と暴力団の間でバランサーの役割を担う、日岡秀一。そのバランスを圧倒的な力と狂気によって破壊する、上林成浩。法整備に代表される取り締まりの強化によって牙を抜かれた暴力団。『小説 孤狼の血 LEVEL2』はそんな流れと現代社会に抵抗する者たち、それを守る者たちの物語である。  上林は強烈だ。幼少期の過酷な体験を受けてか、人間としての情は霧散したかのような振る舞いを見せ続ける。熱くも、冷たくも感じる。しかし、そこに深みのようなものは感じられない。

書評 #41|暴虎の牙

 激しさの中に虚しさが込み上げる。柚月裕子の『暴虎の牙』は広島を舞台とした警察、暴力団、愚連隊による三つ巴の攻防を描く。  光ではなく、影を選んだ人々の物語。破壊の衝動は連鎖し、膨張していく。泥沼のように燃え続ける怒りは象徴的な結末を迎える。時代の変遷と個人主義。ダークヒーローとして圧倒的な存在感を発揮する沖虎彦に、組織とは相反する個人主義の香りが漂う。  非日常的な犯罪と暴力の世界に身を預けながらも、そこには日常の風景とのつながりが浮かぶ。そこには情けがあり、義理がある

書評 #7|影踏み

 群れず。こびず。ぶれず。横山秀夫が描く世界には芯の通った男が似合う。その芯は過去の傷を背負い、ぶれずとも揺れる内面のさざ波が読み取れる。理不尽さや矛盾の狭間でもがく、人間の姿がそこにある。  双子の弟を巻き添えにした母の無理心中によって、父も亡くした凄惨な過去を持つ真壁修一。『影踏み』は空き巣であった弟の啓二の人生を自らが生きるように、母と世間に弟の価値を証明するかのように「ノビ師」となった男の物語。  頭脳明晰。類い稀なる観察力。自らや周囲に降る謎や火の粉をノビ師のご

書評 #3|凶犬の眼

 何事にも良しあしがある。その考えがふと頭に浮かぶ場面が最近は多い。なるべく大局的に物事を把握し、本質を捉えたいと思う。そのためには、さまざまな視点に立つことが必要であり、長期的に見ればバランスを見出すことが重要になる。僕が高校生の頃から思っていることだ。この後の文中では作品の核心や結末が示唆されているため、気になる読者は読むのを避けてもらいたい。  柚月裕子の『凶犬の眼』は一言で言えば「バランス」の物語だ。警察と暴力団が持つそれぞれの義が広島の山奥で淡々と描かれていく。両

書評 #2|孤狼の血

 警察小説に以前から魅了されている。横山秀夫の『64』『第三の時効』、今野敏の『隠蔽捜査』シリーズなどがそれに当たる。犯罪を追う非日常性やそこに内包される謎解きの要素はもちろんのこと、ベールに隠された警察組織の内部を垣間見られること、極端に上意下達のマッチョな環境の下に描かれた人間模様も興味深い。今まで言葉にしたことはなかったが振り返ると、そのような考えに行き着く。柚月裕子の『孤狼の血』も同様だ。この後の文中では作品の核心や結末が示唆されているため、気になる読者は読むのを避け