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書評

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2021年7月の記事一覧

書評 #45|犯罪者

 『犯罪者』は『幻夏』以上にスケールを感じさせる作品だ。太田愛にとっての処女作。物語の核となる謎。その謎は読者の想像を超え、真相を求める旅路へと駆り立てる。  白昼に起きた五人の殺傷事件。被害者の間につながりはない。ただ一人の生き残りである繁藤修司の視点から、事件の違和感が炙り出され、真実、解決、復讐を求める壮大な冒険が展開される。  修司が搬送された病院で、見知らぬ男から警告された十日の存命期間。通り魔と対峙した修司にしかわからない、容疑者とは異なる暗殺者の存在。刑事の

書評 #44|最後の証人

 交差する二つの事件。その二つが交差する旅路が柚月裕子の『最後の証人』だ。隔たる距離。歩みを進めるかのように、その距離が縮まっていく。  社会に秩序をもたらす法の番人たち。どんな組織にも多少の不条理は存在する。人を裁く意味。そこに真の罪はあるのか。それはまやかしか。社会的な立場や地位によって歪む正しさ。それが本著の核であり、鈍い熱を読者へと放ち続ける。  「法より人間を見ろ」という言葉は太陽のような存在感を醸す。「人間」とは人の心を指す。物的証拠や事実は心を映し得るが、具