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書評

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2021年3月の記事一覧

書評 #33|クレイジーフットボーラーズ ピーター・クラウチが明かす プロサッカーの裏話

 イングランド代表やリヴァプールをはじめとする数々のクラブで活躍したピーター・クラウチ。長身フォワードが書き上げた本著は著者の視点で捉えたサッカーにまつわる秘話集であり、力が絶妙に抜けた自伝にもなっている。読みながら、”Laid-back”という言葉が何度も頭に浮かんだ。「くつろいだ」という意味だが、「素直」であり、「飾り気がない」という言葉のほうが肌に馴染む。  クラウチはデビッド・ベッカムでもなく、クリスティアーノ・ロナウドでもなければ、リオネル・メッシでもない。イング

書評 #32|「サッカー」とは何か 戦術的ピリオダイゼーションvsバルセロナ構造主義、欧州最先端をリードする二大トレーニング理論

 壮大なタイトルだ。読者を魅了し、先へと誘う文体も印象に残る。その工夫に、筆者の想像力やコミュニケーション力がほとばしる。  「奥深さ」という言葉をつい使ってしまう。しかし、それはサッカーの魅力を語る上で、最適な言葉なのだろうか。そこに僕は限界を感じてしまう。サッカーは限界がなく、宇宙のように広がり続けるからこそ、世界中の人々から愛されている。僕はそう思う。本作はその魅力の一片を世に届けている。  無限にも近い選択肢の中で、監督を中心としたチームは戦略を築く。理想は何か。

書評 #31|フットボール風土記

 淡々とした文章。だからこそ、純度の高い感情が伝わってくる。サッカーが持つ喜怒哀楽を描いている。宇都宮徹壱の『フットボール風土記』を僕はそう評したい。  著者はそこにしかないサッカーを求めて、日本中を旅する。読者はその旅に同伴しているような感覚を覚える。丁寧に、簡潔に。事実と思いを適切なバランスで宇都宮徹壱は紡いでいく。  「そこにしかないサッカー」の「サッカー」とは何を指すのだろう。それは試合であり、日々の練習でもある。サポーターたちの声援であり、嘆きでもある。しかし、

書評 #30|フットボール哲学図鑑

 欧州の名だたるクラブを西部謙司の知識とセンスを駆使して簡潔に言い表していく。核心を突きつつ、その力の抜け具合は二十年近く前に眼を通したダイヤモンド社の『大学図鑑!』を思い起こさせる。  一つ一つのクラブとその歴史を読み込むだけでも面白いが、俯瞰して捉えると大河の流れのようなものがそこに浮かぶ。一斉を風靡したリベロは現代のゼロトップや偽サイドバックなどに通じ、ポジションの固定観念を打ち破ることが時代に左右されない、成功への一つの道筋であることが見て取れる。  そして、哲学

書評 #29|ヘディングはおもに頭で

 主人公の松永おんは自身を”0.5”と表現する。子どもと大人の中間。そして、これといった肩書きや意志を持たず、漂うように日々を生きる。『ヘディングはおもに頭で』は「半人前」の彼がフットサルと出会い、微かに変化していく物語である。  偽りのない、純度の高い言葉が紡がれている。それらの言葉を色で例えれば「白い」と僕は感じた。それは美しくもあり、ある意味では弱い。社会と世界に染まっていない言葉。白からオフホワイトへ。フットサルに導かれ、新たな色が生という名の水面に滴る。  おん