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【レポート】KANSYOさんと鑑賞デビューしよう!ツアー 【24.3.20】


長野県北野美術館で、去年に引き続き鑑賞プログラムを行いました。
(昨年の様子はこちら。https://yusatoblog.blogspot.com/2023/03/blog-post.html)

昨年とは違う趣向で、もっと分かりやすさ、楽しさを押し出そうということで、今回は「KANSHOさん」というキャラクターに扮して、皆さんの鑑賞デビューを後押しするという枠組みでやってみることにしました。

これが広報としてまず当たったようで、定員を大きく超える60人以上の参加者が集まることになりました。テレビや新聞の取材にも来てもらう事ができました。

今回は初めてやるプログラムなので、とにかく試行回数を増やして、実施のパターンをいろいろ見ておきたいということもあり、45分のプログラムを1日で6公演することになりました。昼休憩1時間を除いて、開館から閉館まで定員満員のプログラムをずっと行う、充実した1日になりました。
集まった参加者に挨拶をして、お互いに短い自己紹介。そのあとは移動屋台をガラガラ押しながら、みんなで展示室に移動して、今回のプログラムで大事にしてほしい以下のモットーを伝えます。

「みんなそのままで100点。」「正解は同時にたくさんあって良い」
「たくさんの正解が同時にあって良いのが鑑賞」だと思います。今日は皆さんが考えること、感じること、全てが正解、100点だと思ってなんでも考えたり発言をしてください。保護者の方も子供の鑑賞の仕方について、普段は口出しすることもあるかもしれませんが、今日は「それが100点の鑑賞だとしたら?」と、一旦立ち止まって想像する気持ちを持ってください。

最初のワークは、「リレー鑑賞」
KANSHOさんが参加者に作品について、「何が描いてある?」「それはどんな場所?」「何がいる?」「それは何してる」と順番に問いかけていって、答えてもらった内容を1枚の絵に描き足し、全体で「おはなし」のような解釈を作っていきます。

これは「いちまいばなし」の鑑賞版。何を言っても受け入れられて、それが上書きされながら繋がって、誰もよくわからない解釈になっていきます。とにかく、何を言ったり考えてもよくて、正しさや一貫性だけが鑑賞じゃないというような、「こう見なきゃいけない」という縛りを緩め、「お互いが異なる」ということを実感してもらうためのワークです。

いきなり問い掛けられて自分の考えを言葉にするのは、大人でも戸惑うことなので、なにも言えなくてもOK。拍手で称賛します。言葉にすることだけが大事なのではなくで、このワークをきっかけに自分なりに作品のことを考える時間が少しでも持てれば100点です。そんな話しもしておくと、案外その後のワークでポロッと言葉が出てきたりします。


続いてのワークは「カード鑑賞」
「近づいたり、離れたりして見てみよう」「作品の中に入ったつもりになって、見えるものを想像しよう」など、さまざまな指示が書いてあるカードを引いて、その指示に従って(指示に沿わない自由な見方でもOK)鑑賞してもらい、何か発見がないか探してもらいます。(これの元ネタは2018年に宇都宮美術館で行った「饒舌な常設」https://www.yusatoweb.com/kanshou-jozetsu。)

これまでたくさんの鑑賞者にお話を聞いてきましたが、鑑賞が楽しくなるポイントは「こうだと思って見ていたものに、別の見方を発見すること。」だということがわかってきました。視点の変化を起こしやすくするには、いつもとはちょっと違った見方をする必要があります。そのきっかけになるように、鑑賞者がよく行う視点の変え方をカードに落とし込んでみました。カードをきっかけに鑑賞して、気付いたことを全体でシェアします。

最後にKANSHOさんが簡単な作品の説明を読み上げて、解説との向き合い方を試します。これまで鑑賞してきて、「なぜだろう?」「どうしてだろう?」と興味を持った部分を意識して解説を聞いてみると、先ほどのカードのように、また何か発見があるかもしれません。

解説は唯一の正解ではなく、それも一つの正解。自分が感じたことも正しいし、解説も正しい。そんな気持ちで更に発見できることはないかを確認してツアーは終了。その後はそのまま展示室を自由に鑑賞する姿もたくさんありました。

小学生以上の親子がメインの対象でしたが、大人単独の参加もたくさんあって、一緒にプログラムを行えた雰囲気がとても良かったなと思いました。(プログラムには大人用のバージョンも別にあります)

今回のプログラムでは、探求の到達地点をこちらがコントロールするのではなく、参加者それぞれが自身のペースで楽しみながら様々なことを発見する「きっかけ」を撒くということを念頭に置いていました。

私の鑑賞プログラムのモットーに、「鑑賞は既に完成している」というものがあります。これまで様々な方の鑑賞の体験をたくさん聞いていく中で、鑑賞体験の長さや質などは関係なく、どんな人であっても、それぞれにとって既に作品への向き合い方は完成しており、どれもがとても豊かで興味深いということがわかってきました。

今回のテーマである「みんなそのままで100点」につながりますが、既に誰もが作品を自分のあり方で充分によく見ています。それぞれが感じたことをそのまま外に出して味わってみると、それだけでとても楽しく面白いものです。ただ問題は、多くの人が自分が既に100点であると言うことに気づいていない‥と言うよりは、本当はどこかでそれを知っているのかもしれませんが、自分で自分を認めないで「私の考えていることなんて‥」と蓋をしてしまうこと。その部分をどうにかしたいという思いで、どんな感じ方も受け入れて楽しむという環境をこのプログラムの中で体験していただこうと思って実施しました。

終わってすぐたくさん「楽しかった」「見方がわかった」と反響をいただきましたが、それはKANSHOさんが何かを与えたのではなく、参加者の皆さんが自身の感じていることに敏感になって、自分を自分で受け入れることでの感動が生まれたのだと思います。

今後も色んな場所でKANSHOさんツアーをやっていきます。

またどこかで!

その他の鑑賞プログラム:
・おしゃべりアート鑑賞会@新潟:https://yusatoblog.blogspot.com/2023/11/blog-post_28.html
・科学博物館での鑑賞実験:https://yusatoblog.blogspot.com/2023/09/blog-post_27.html
・@神戸大学:https://yusatoblog.blogspot.com/2023/06/blog-post_24.html
・アドベンチャーゲーム「ラ・ジャポネーズの微笑」https://yusatoblog.blogspot.com/2021/12/blog-post.html
・違和感で見る違和鑑賞:https://yusatoblog.blogspot.com/2021/11/blog-post.html
・さんぽ鑑賞@東京大学:https://note.com/yusatoweb/n/nd389850594f8
・親子の「糸でんわ」鑑賞:https://yusatoblog.blogspot.com/2018/08/blog-post.html

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