見出し画像

yuka~左手の小指~

文化祭が終わり、オレの高校は就職校だったので3年生の殆どが就職活動に
入った。
成績や学業態度のいいヤツは、夏休み後早々には、大手ゼネコンの就職内定
が決まっているのもいた。

オレは・・・と言うと。

成績自体は悪い方ではなく、むしろ大学進学が可能な成績だった。
しかし、家庭環境。つまり、家の貧乏生活、借金生活から考えれば、進学を
希望するには、とてもとても親に言う状態では無かった。

それでは就職。
オレは建築科だったので、建設会社を学校が斡旋してくれるのだけど、
先生達から、
「オマエは絶対に学校の看板(つまり学校の名前)で就職はさせない。」
「オマエが出来る就職と言えば、学校に迷惑の掛からない公務員位だ。」
と、散々に言われていた。

それはそうだ。
高校2年生には、殆ど学校に行っていないし、ちょっとしたトラブルで、
警察の厄介にもなり、停学にもなっていた時期がある。
そんな中で、学校に「就職を斡旋してください」とは、到底言えなかった。

実は、この状況下を考えて、就職に関して「公務員」を目指していた。
学力ならなんとかなる。そして一般職ではなく専門職を目指せば、余計な
「ツテ(伝手)やコネ」などは必要ない。

しかし、学校での評判は悪く、先生達からは、
「オマエが公務員になったら、驚くよな!」と、嘲笑されていた。

文化祭の前後に、1次試験があり合格発表が近づいてきた。
結果は・・・。
受けた試験の殆どが、1次試験を突破していた。
殆どというが、落ちたのは1つだけだった。
こちら側にすれば後は2次試験の面接や小論文のみ。

試験によっては、オレ1人だけしか一次試験を合格しているのもあり、
ここから先生達の見る目が「ガラッ」と変わった。

「〇〇。オマエは凄いな!2次試験の内申は任せておけ!」と・・・。

学校からすれば、就職先に「公務員」の経歴が付くのは大きい。
本来は、自力で合格した試験であっても、学校の名前が上がる。
それだけで、当時のジジイ達は、対応を変えてきたのた。

今思うと、汚い大人の一面を臆面もなく見せてきたのだから、
気分悪いのは当然だ。しかし、当時の自分は若く、先生の豹変ぶりに
少し浮かれていたようにも思う。

いくつかの合格先を選ぶのに、軸になったのが「yuka」だった。

本当に浅はかな、後の事を全く考えていない馬鹿な行動だ。
それでも、その時は真剣に「yukaがどこに就職するか?」によって
自分の就職先を選ぼうとしていた。

さて。

文化祭が終わってからのyukaとのやりとりは、学校での会話が無くなり、
家へ帰ってからの電話が中心となっていました。

これはyukaが文化祭の期間だけ、遅く帰ってきても良いという、
yukaの兄の了解・承諾があったのです。

以前にも書きましたが、yukaの家は「母、兄、yuka」の3人暮らし。
2つ上の兄が、実質の親父代わりだったのです。

電話に関しては、yukaの兄も分かってくれていて、兄が電話に出ても
「おー〇〇くーん!yukaやなー。ちょっと待ってよー!!」と、
対応も良かったのです。

オレとしては電話だけの会話が、段々とツラくなってきた。
文化祭前のように、顔を見ながら話をしたかった。

この話を、yukaに相談しようと、前日夜の電話でyukaに話しました。

「明日の土曜日。授業が終わったら、話があるんやけど。」とオレ。
「え?なんの話なん?電話では無理なん?」とyuka。

「会って話が出来るんって、土曜日くらいしか今は難しいやろ?」
「うん」
「だから、明日話しできたらええなーって。」
「分かった!!OK!!明日授業終わったら、ゆうきの席まで行くー!!」

文化祭が終わって一ヶ月あまり。
久々のyukaと顔を向き合いながら話が出来る。
そこで
「土曜日くらいは時間を作ってもらって、学校でもいいから話がしたい。」
と、話す事にしました。

その日の土曜。

授業が終わって、yukaを待っていた。
その時間は「製図」の時間終わりだったので、製図室でみんながわいわいと
学校から帰る準備をしつつ話している。

yukaの周りには、数人の女子の同級生たちが取り囲んで、わいのわいのと
やっている。

オレは、友人達から少しだけ離れて、yukaが来るのを待っていた。
しかし・・・30分経っても、yukaはこちらに来ない。

友人から大声で「ゆうきー。まだ帰らんの?」と言われる。
その声はyukaにも聞こえているはずだ。しかし、みんなとわいのわいのと
やっている。全く意に介していない感じに見えた。

やっぱり、今日言うのはやめておこうか。yukaもそれなりに忙しそうだし。
と思い、オレは諦めて製図室を抜け出し、校舎の階段を降りた。

校門前の自転車置き場には、多くの生徒達で溢れていて、正門前にも多くの
生徒がたむろしていた。

友人と帰る事もなく、1人で校門を抜けようとしていたその時に。

「ゆうき!!」

と言って、オレの左手を握る人が。

後ろを振り返ると、真っ赤な顔をして、息を切らしているyukaだった。

はぁはぁと大きな息をしながら、
「今日話す約束やったやん!」と、yukaは言った。
オレは「いや・・・yukaもみんなと話してたから。」と。
yukaは「それだったら、ワタシに言えばいいやん!」と。

「追いかけてきたのか・・・」とオレは思い、
慌てて走ってオレを追いかけ、オレを引き止めようとしたのだろう。

yukaはオレの左手の小指だけをギュッと握っていた。
言葉では大きく見せるyukaだったけれど、この行動に出るなんて思いも
しなかった・・・。

yukaはこの後も、時折オレをびっくりさせるような行動に出る。

それが、yukaへの想いを募らせてしまう一因になってしまう。

ゆうさん


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?