不思議なユウ先生 vol.1
-先生ってなにしてるんですか?-
これは、ぼくがユウ先生と過ごした不思議で有意義な時間の記録である。
「先生ってなにしてるんですか?」
『ちょっと今は話しかけないでおくれ。ワタシは今、砂糖とミルクをどちらを先に入れるか考えているんだよ』
「ホットコーヒーなら砂糖が先で、アイスコーヒーならミルクが先ですよ」
『君の意見が聞きたいわけじゃないんだ』
「これは一般常識ですよ」
『それって誰が決めたんだ?』
「それは知らないですけど、ちゃんと理由があるんですから」
『どんな?』
「ホットコーヒーの場合は、ミルクを先に入れるとコーヒーが冷えて砂糖が溶けにくくなってしまうんです。アイスコーヒーは、ガムシロップを先に入れるとミルクの混ざりが悪くなるんです」
『美味しいコーヒーを飲みたい人ならそれでもいいかもな』
「先生はそうじゃないんですか?」
『ワタシは少しぬるいほうが好きだし、徐々に甘くなっていくのが好きなんだよ』
「変わってますね」
『変わっていたらなにか悪いことでもあるのかね?』
「ないですけど…」
「そんなことよりも、先生はなんの仕事をしているんですか?」
『仕事ってなに?』
「なにって…どうやってお金を稼いでいるのかですよ」
『お金は親からもらってる』
「は?」
「どういうことですか?」
『どういうこともなにも親からお金をもらってるってことだよ。それ以上でもそれ以下でもない』
「親がお金持ちとかですか?」
『いや、普通の家庭』
「じゃあ、ニートってことですか?」
『ニートってなんだ?』
「もういいです。いい歳して仕事してないなんて軽蔑します」
『君はお金を稼ぐために仕事をしているのか?』
「当たり前ですよ。あんなのタダでやるわけないじゃないですか」
『それって人生楽しい?』
「人生を楽しむためにお金が必要だから仕事をしてるんです」
『じゃあ、楽しみながらお金を稼げるようにしたらいいじゃないか』
「それができればやってますよ。仕事をしていない先生にはわからないですよ」
『ワタシだってお金をもらっているから仕事をしているじゃないか』
「先生のはニートっていうんです。仕事じゃないです」
『息子という仕事をしているとは言えないかね? ワタシは母が喜ぶことをするように意識しているんだ。そうしたらお小遣いとしてお金をくれるんだ』
「そう言われればたしかに…って、ぼくは認めないです」
『やっぱり最後の一口は甘いのに限るね』
先生は空になったカップを置いた。
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