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一部

道草を食う
山羊が路頭に迷う
ランタンの灯りを頼りに歩く猿
車道に飛び出す鹿の群れは皆一様に左の前足がない

僕は背の高いトウモロコシ畑を歩く
葉が頬に当たって痛いけれど
傷付いても進んでいる
足元を駆け抜ける青蛇
頭上を通り抜けるてんとう虫

トウモロコシ畑を抜けると崖がある
まるでナイアガラの滝みたいに人が落ちる崖
人肉を漁る鷹
それを取り囲むように寝ているのは顔もない人
畑の電気柵に突っ込む猪
心臓が止まった鼠を咥えた猫は
犬に吠えられ
人間にその背を撫でさせる

僕は深呼吸をする
まるで自分が非日常にいるみたい

だけど
   ここは
        現実の一部

揺れるトウモロコシの葉が
奇妙な音を立てる
遠くに見える白樺の森には
きっと魔女がいるかもしれない
けれどそんなこと
今の僕にはどうだっていいのだ

ハイブランドの服も
結婚式の招待状も
大学の成績表も
柳田國男の本もどうだっていいのだ

だから僕はもう一度深呼吸をして
全ての道はローマに通ずる
郷に入っては郷に従え
という言葉を3度唱えて
それからスーツに似合うであろう革靴を脱ぐ

生憎今はとてもカジュアルな恰好なので脱いだほうがやはり良かったみたいだ、北風が少しだけ弱まり太陽はその熱をより強く、より伝える

僕は息を吐く
僕は膝を曲げ
まるでイルカみたいに
仲間たちの元へ
飛び跳ねていく


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