パパの通信簿(前編)
「なんで休みの日にこんな朝早くから、学校に行かなくちゃいけないんだよ…」
「もう、ぶつくさ言わないの。ね、健太?」
「そうそう、ぶたぶた言っちゃだめだよ、パパ」
息子の健太はことしの4月に小学校にはいったばかりだ。変わった小学校だという噂だったが、家から近いし、なにより中学受験の合格率が高いことからここに決めた。
入学式から1ヶ月。学校から一通の案内が届いた。
〜パパ&ママ招待状〜
5月12日(土)に家族授業をおこないます。ぜひ家族全員で学校にお越しください。
*追伸
当日は動きやすい服装でいらしてください。
パパ、ママって…いったいだれが書いたんだ、これ。
文章を読むかぎり強制参加ではなさそうだ。しかし妻の春香は「中学受験に響くかもしれないから」参加すべきだという。まあ、一回くらいいってもいいかと思い参加することにしたのだが。
やっぱり土曜日の朝7時に起きるのはつらい。ほんとだったら昼まで寝ていられるはずなのに(健太の彗星キック(アニメの必殺技らしい)で起こされる)。はやくも後悔しはじめる。
「ゆうとくん、おはよー」
「あ、けんたくん。おはよー」
息子の友達を見るのは初めてだ。妻はゆうとくんのママらしき女性と話している。教室をぐるっと見渡してみると子供が6人…クラス全員じゃないのか。
「はい、みんな。席についてー。パパとママはお子さんの両側に座ってくださいね」
なんだ、授業参観じゃないのか。
「今日は家族全員で授業を受けてもらいます。」
1じかんめ(8:50〜9:35):さんすう
2じかんめ(9:40〜10:25):こくご
3じかんめ(10:45〜11:30):おんがく
4じかんめ(11:35〜12:20):たいいく
きゅうしょく(12:20〜1:40)
5じかんめ(1:40〜2:25):テスト
この時間割...ま、まじか…。1時間が45分とはいえ2時25分まで授業がびっしりはいっている。といっても小学生の授業だ。楽勝だろう。
「たけしくんはアメを3つ持っています。あかりちゃんはアメを2つ持っています。2人合わせると…」
楽勝すぎて思わずあくびがでてしまう。その様子を健太がじっと見つめてくる。なんだ? もしかしてわからないのか?
カラン、コロコロコロコロ…
となりの席の子供がえんぴつを落としたようだ。ひろって無言で手渡す。
「けんたくんのパパ、ありがとう」
「え、あ、いや…」
「パパ、そういうときは、どういたしましてって言うんだよ」
「あ、どういたしまして」
なんか調子狂うな。健太ってこんなにしっかりしてたっけ?
5分間の休み時間。トイレにいって水筒の水を飲む。いまどきの小学校では蛇口から水を飲まないらしい。
むかしむかし、木こりのおじいさんは、お昼になったので、切りかぶに腰をかけてお弁当を食ベる事にしました。
「うちのおばあさんがにぎってくれたおむすびは、まったくおいしいからな」
ひとりごとを言いながら、タケの皮の包みを広げた時です。
コロリンと、おむすびが一つ地面に落ちて、コロコロと、そばの穴ヘ転がり込んでしまいました。
引用:おむすびコロリン
http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/03/15.htm
2時間目は国語。先生が朗読をはじめる。ダメだ、もう限界だ。カフェインがほしい。先生の声が子守唄にきこえる。
うとうとしかけていると背中につんつんと何かが当たるのを感じる。
「けんたくんのパパ、これ、読んだら前の人にわたしてね。先生に見つかっちゃダメだよ」
ハートの形に折られた紙を広げるとひらがなばかりの文章が目に飛び込んでくる。
せんせいがきょうかしょをよんで、みんなのほうを見たら、へんがおをしてください
…って、おい。まるで女子高生のノリだな。まあいいか。健太に紙をわたすと器用にハート形に折って前の女の子にわたしている。
「よし、やってみよう」
おじいさんが小づちを一振りしただけで、おばあさんのひざの上には、もう赤ちゃんが乗っていました。
もちろん、ちゃんとした人間の赤ちゃんです。
おじいさんとおばあさんは赤ちゃんを育てながら、仲よく楽しく暮らしましたとさ。
そろそろ先生の朗読が終わる。
先生が顔を上げた瞬間、
「せーのっ!!!」
健太の掛け声でみんながいっせいに変顔をする。
一瞬、先生はかたまった。でもそのあとすぐ大笑いをしはじめた。つられてみんなも笑いはじめる。
ヒッヒッヒッヒッ
ハーハッハッハッ
アハハハハ
フハハハハ
ウヘヘヘヘ
僕の顔をみた健太も涙を流して笑ってる。見たか、必殺「ぬらりひょん顔」。これで笑わなかった人間はいない。鬼の部長ですら笑わせられる自慢の変顔だ。
*長くなっちゃったので続きは後編をご覧いただけると嬉しいです
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