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クワガタ君、灼熱の我がベランダをゆく


今年は熊の出没騒ぎをよく聞く。

餌を求めてなのか、より良い住環境を求めてなのかは知らないが、熊には熊の事情があるよね、きっと。

熊から見れば、自然破壊を続ける人間こそが、彼らのテリトリーに出没するプレデターなんだろう。

不謹慎ではあるが、テレビニュースに映る熊被害に遭われた方をよそに、東京23区内に住む僕は、呑気なものだ。

それにしても暑い。
南側に張り出したベランダは、灼熱の太陽に灼かれてとても素足では歩けない。50度くらいはありそうだ。

うん?
何か黒い物体が動いている。

おおっ、近付くと昔懐かしいクワガタ虫が。ヒラタクワガタかな?

ベランダの床タイルの端を歩くクワガタ君

小学生の頃、裏山で捕まえたクワガタ虫を飼っていた。飼育ケースで大事に育てた彼は越冬し、翌年春に新聞社の目に留まり、地方版の記事になった。

「昆虫好きの少年、クワガタの越冬に成功」

いや、そんな思い出に浸っている場合ではない。

ここは東京23区内。
自宅の前には木々が生い茂る公園があるものの、まさかクワガタが迷い込んで来るとは。

暑く灼けたベランダの端を歩く君を見ながら僕は思った。

君はどんな事情があって、ここに来たのか。
住みづらい世の中だけど、わざわざこんな所に出てこなくても。

そして僕は彼を公園に見送った。

#夏の1コマ

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