私と彼の物語 #4話
「こんにちはー」
私は朝目覚めて、身支度を30分もかからず終え、人として家を訪れるには早すぎない常識のある時間、いわゆる10時ごろ先輩の家を訪れた。
「いらっしゃい…ってうわ!めっちゃ腫れとるやん!!!!!」
「そうなんですよ、いひゃくていひゃくて(痛くて痛くて)昨日から何も食べてないんです…何か口の痛い私でも食べられるものをください」
「えー…うどんでえーか?」
「やったー」
サークルの後輩にすぎないはずなのに、私のためにうどんを作ってくれるなんて。そんなことされると、株が上がるじゃん。たかだかうどんなのに。素うどんなのに。キツネも入ってないのに。
「………先輩、モテるでしょ」
ふと気になったので聞いてみた。
「あー…まあ、女には困ったことないかもなー」
「うーわ、またそういうこと言う!でも彼女いたことないんでしょ!」
「いないんじゃなくて、作らなかっただけやから!」
そんな流れから、先輩の過去の話を聞くことになった。
中学のこと、高校のこと。同級生という一括りだった男女が、異性と意識する時期は、語っても語りきれないほどの出来事と感受性をもつものだ。
「モテはしたんやけどなー…、俺硬派に憧れててん」
中学生の頃には身長が170近くあり、顔も出来上がっていたらしく、学校で1、2を争うほどにはモテたらしい。しかし、自分としては”女になんか興味はない”男で痛かったらしい。だから告白されないようにガードを張っていたのだとか何とか。ほんとなんだか、嘘なんだか。
しかしよく聞いてみれば、アニメヲタクでもあったらしい。学校が終われば、すぐに家に帰り、アニメをひたすら見ていたのだとか。女の子よりもアニメに夢中でモテていたことを友達伝いで聞くことの方が多かったとか。
いずれにせよ、自分から硬派なフリをしてもアニメオタクにしても、”残念な男”であったことには変わりはないようだ。
先輩の話を聞いていると面白くて面白くて、痛みを忘れて聞き入ってしまう。どうしてこんなに面白おかしく話すことができるんだろうか。私が話すのが下手なだけに、先輩には言葉も出なかった。残念な男ではあったかもしれないが、きっとこの人は今も昔も簡単に女が寄ってくるタイプの人である。
あっという間に夕暮れになった。
「先輩、お腹空かないんですか?」
「あーせやな、なんか作ろうか」
「顔痛いからうどんみたいな…柔らかいもの…」
「…お茶漬け?…パスタでもいいけど。と言っても具材的にペペロンチーノくらいしかでけへんけど」
「ペペロンチーノ!自分じゃ作らないから、食べたいです〜」
「何で俺が後輩のために、ご飯つくらやんねーん」
無駄口を言いながらも作ってくれたペペロンチーノは、とてもおいしかった。
「私、先輩のこと誤解してました」
「え?」
「チャラ男だと思って…今までなんとなく苦手意識持ってたんです。こんな感じで気軽に家に来たりしちゃいましたけど。でも、誠実で、優しくて、残念な人なんだなって思いました」
「せやろせやろ、誠実で、優しくて、残念な人ってなんやねん!」
大阪人らしく、ツッコミも上手。
「ご馳走様でした、また明日も来ますね」
「…はいはい、待っとるわ、またな」
「おやすみなさい」
そう言って、先輩の家を出たのは20時をすぎた頃だった。
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