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ツルツルすべり台とザラザラ山:岩手県北東部山間・高山地域【災害から身を守るvol.13】

岩手県北東部の地形と地質を見ていくシリーズ。
カルスト台地を見てるうちに、またまた気になる地形を見つけましたので、今回はそのお話です。

場所は?

この前お話ししたウバーレっぽい場所の西側にやけに平坦で幅の広い谷がありました。コレです。

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スーパー地形(カシミール3D)より抜粋。
なおカシミール3Dは元データとして国土地理院の「電子国土」を使っているそうです(出典:国土地理院ウェブサイト
※トップ画像や以下の地形・地図画像すべて引用もとは同じです。

右上に見える丸っこい地形がウバーレかな?という場所。
そして図の左側に幅が広くて平坦な谷地形がありますよね。

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おおお!端神という意味深な地名がついています!
検索してみたらヒットしました。
「はしかみ」と読むらしいです。
なんと「人里の巨木たち」というサイトで紹介されていました。
なかなか興味深いサイトですので、みなさんもよろしければ覗いてみてください。

こう言う地形がナゼできたのか?と疑問に思った時、私はまず真っ先に「上流」を見ます。
平坦地があるということは、それだけ土砂が流れてきたということ。
とすれば、そのもとになる「地すべり地形」「崩れた跡の地形」「崩れやすい地質」があるハズ!と思うからです。


上流を見ていく

さっそく行ってみましょう!

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うわ!もう出てきましたよ。
随分とボコボコでザラザラな地形ですね~。
これはもう、私は「どんな地質か?」は見当がついてしまいました(笑)
みなさんはいかがでしょう?

過去記事でも何回か紹介してますので、気づいた人もいるかもです。

まずは、もっと広く地形を見てみましょうか。

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もっと上空から見てみます。
なかなかに広い範囲でボコボコ・ザラザラが続きますね。
でも左の方には、やけにノッペリした斜面があります。

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さらに南西を見てみると、先ほどとは違ってノッペリした斜面が広がっています。まるですべり台のようですよね。

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一気に引いてみました。
なるほど・・・

すべり台の範囲

地形を見た感じでは、だいたいこんな感じの範囲は、周囲と違う地質では?と思います。


地質は?

ということで、シームレス地質図V2をかぶせてみましょう。

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スーパー地形アプリ上でシームレス地質図V2(産業総合研究所より)を表示

だいたい合ってるようですね。
この紫色は中生代白亜紀に貫入した閃緑岩・石英閃緑岩だそうです。
閃緑岩はマグマの成分が中性で、地下でゆっくり冷えたもの。
石英閃緑岩はマグマの成分が閃緑岩と花崗岩の中間です。

どちらも地下深くでゆっくり冷えたので、鉱物の結晶が大きい岩石です。
そして花崗岩と同じように、もともとはガッチガチに硬いのですが、地上に出てからは風化するスピードが早い。

つまりマサ化してボロボロに崩れやすい地質です。


もう一度、地形を詳しく見てみる

アップで見てみましょう。

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よ~く見てみると、どうも標高の高い場所がツルツルの斜面になってるようです。
拡大して詳しく見ると削られて谷ができていますので、全く風化していないわけではなさそう。
おそらくですが、標高が高い場所は雪が積もりやすいので、春の雪解け水が一気に斜面を流れる時に風化した部分を洗い流すのかもしれません。
毎年春に斜面全体が洗われるので、ザラザラが残らないのかな?と私は思いました。真偽はわかりませんが・・・。

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どれだけツルツルなのか、この範囲で断面を切ってみました。

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スーパー地形アプリの断面図作成機能を使って筆者作成

さすがに多少のウネリはあるにしても、すんごい滑らかな地形ですね!

もしかしたら節理面(岩盤に形成される割れ目)を起源とする面である可能性も考えられます。

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一方、こちらはだいぶボッコボコのザラザラですね。

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空中写真をかぶせました。
特に右上部分は、灰色やら白やら・・これは閃緑岩の岩盤がむき出しになってるようです。

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下には端神の集落がありますが、背後の山、モコモコしていて崩れそうで怖いです・・・。

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平坦地に人が住み、周囲はマサ化して崩れそうな閃緑岩・・・。
人はやはり、平坦で水を得られる場所にしか住めません。
そしてこの場所の場合、閃緑岩がマサ化して崩れた土砂でできた平坦地な訳ですから、周囲に「崩れやすそうな斜面」があるのは当たり前と言えば当たり前。
やはり我々日本人は、自然の恩恵をうけつつも、災害と背中合わせの場所に住んでいるのですね。

崩壊跡

ちなみにここは端神の北西の集落です。「のず」と読むのでしょうか?
地形を見る限り、赤点線の範囲は過去に崩れたと考えられます。
北側の方は、だから家がないのかも知れません。
南の方には家がありますね。
もしかしたら南の方が崩れたのが昔で、伝承が伝わらずに、新たに家を建ててしまった可能性も考えられます。
でも、挟まれたモコモコの山が安全とは言えません。
むしろ風化した閃緑岩が残ってる分、今度崩れるのはここかも知れません。
集落の住民たちが、このことを知ったうえで住んでいれば良いのですが・・・(※知っていればイザと言う時に避難できます)


やはり、もっともっと地形・地質について多くの方々に知ってもらい、救える命を救いたい。
改めて、そう思わされました。

お読みいただき、ありがとうございます。

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