信頼できるジャーナリズムはどういう感じか?
本物は地味だ。
『スラムダンク』の桜木花道だってさかんに「キソ、キソ」と言うけど、どんな世界にも"基礎"があって"応用"がある。バスケなら、スラムダンクを決める前にパスやドリブルをいやほど練習しなければならない。基礎は地味でたいくつなものである。
これはスポーツだけでなく、宗教にもビジネスにもダイエットにも語学にもあてはまる。
「寝ているだけでダイエットできますよ~」とか「聴いているだけで英語ペラペラになりますよ~」と言うのは、「練習しなくてもスラムダンクが決められますよ~」と言っているのと同じで、あやしい。
「そんなわかりきったことを言うな」と思うかもしれないが、じつはジャーナリズムもおなじである。たいていの陰謀論サイトでは、世界の秘密がカンタンに手に入る。「寝ているだけでダイエット」と同じくらいあやしい。
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一方、基本を押さえたジャーナリズムは地味である。ウラを取っていく作業は骨が折れるし、そうそうハデな結論が得られるものではない。
折り目正しいジャーナリズムがどんな感じなのか、最近イイ感じの記事を見つけたので紹介したい。ぼくはジャーナリズム詳しいわけではないんだけど、一読者としていいなあと思ったのである。
先日、JBpressに載った記事で、著者は小川 博司という人である(JBpressは、日経ビジネスの元編集長が立ち上げたニュースサイトでバランスの取れた論調。著者の小川博司氏についてはこれまで存じ上げなかった。)
この記事では、アメリカの議事堂乱入に反対勢力(極左)がかかわっていた証拠が出てきたと報じている。
タイトルの「日本人女性」というのはジャーナリストの我那覇真子氏。彼女が、エポックタイムズというメディアで「乱入にアンティファが関わっていたと証言した」というのが主な内容だ。
これは一歩間違えれば陰謀論である。小川氏は本論に入る前にこう前置きする。
ちなみに、エポックタイムズは法輪功系のメディアで、極端かつ徹底した反中報道スタンスで知られる。最近はトランプ大統領を支持することで視聴者を増やしており、誤情報や陰謀論を拡散しているとリベラルメディアは批判している。そして、取材を受けた我那覇氏は「琉球新報、沖縄タイムスを正す県民・国民の会」の代表で、保守派のフリージャーナリストとして活動している人物だ。その点を理解した上で読んでいただきたい。
つまり、この記事の元ネタになったメディアも証言者もかなりの保守派だと指摘しているわけだ。ただし、小川氏は、その反中スタンスがイイとも悪いとも、それを批判するリベラルメディアがイイとも悪いとも言っていない。
「今から自分が言うことは全体にかたよっている可能性があるので、うのみにしないでくれ」とくぎを刺しているのである。
信頼できる報道にはこういう感じがある。自分に不利な情報もあえて提供して読者にくぎを刺す。
一方、あやしい報道はそこを伏せて読者を誘導する。不利な情報は伏せたほうがハデな結論を導ける。スラムダンクを簡単に決められるようになる。
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昨日も紹介したけど、バイデン疑惑だってネタ元は「ニューヨークポスト」というタブロイド紙である。タブロイド紙とは「エルヴィスが生きていた?!」的なことを書く新聞だ。
バイデン疑惑に関する記事を読むときは、ネタ元がこういうサイトだというということをまず断ったうえで報道しているかどうか。そこを、ぼくらは見なければならない。
小川氏のような記述を読むと、この人の取材姿勢は信頼できると感じる。今後「小川博司氏の記事はきちんと読もう」と思ってブックマークする。
一方で自分に不利な情報を伏せている記事やサイトを見かけたら「こいつらの言うことはあてにならない」と思う。あやしげなダイエット食品を買い込むように、どんどんかたよった見方に誘い込まれてしまう。
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