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戦争を知っている人・知らない人

今の日本人は、世代で大きく2つにわかれると思う。自分が「戦後生まれ」だと感じる人と、大戦を遠いむかしの話だと感じる世代だ。Amazon Primeで往年の名作ドラマ『傷だらけの天使』を見ていて、そういうことを思った。

『傷だらけの天使』のキャストは、萩原健一、水谷豊、岸田森などクセモノぞろいで、おもしろいに決まっているような作品だ。オンエア当時はショーケンが、高度成長期の今どきの若者をカッコよく演じて、ずいぶん受けた。ぼくも、当時の空気感はなんとなくおぼえている。

でも今あらためて見てみると、大戦の爪痕が随所に見え隠れする。「あのころは戦後だったんだな」としみじみと感じさせられる。

とくに第四話「港町に男涙のブルースを」が印象にのこった。あとでしらべたら監督が神代辰巳である。

主人公のショーケンは私立探偵のパシリのようなことをしていて命を狙われ、着流しの男(池辺良)に救われる。

その男から仕返し用の手りゅう弾を渡されるんだけど、ショーケンはビビる。いくら腕っぷしが強いといっても、戦後生まれのフツ―の若者である。そりゃあビビる。そこでの、手りゅう弾の出し方、重み、受け取り方、周囲のビビり方がリアルなのである。

のちの『西部警察』あたりではいくらショットガンを撃っても大爆発が起こっても、まるで時代劇のタテのように様式化されてしまっていたが、『傷だらけの天使』では、手りゅう弾というもの気持ち悪さがよく出ていた。

手りゅう弾を出してくる池辺良は、一見するとさっぱりした着流しだが、どこか復員兵くずれの雰囲気がある。ショーケンの父親世代であり、ぼくのじいちゃんの世代だ。

実際に、俳優 池辺良の経歴を調べてみると、まず中国戦線へおくられ、その後、南方へ送られて船が撃沈され10時間海中をさまよっている。その後はハルマヘラ島に着任し、米軍のすさまじい艦砲射撃に耐えて終戦まで戦い続けた人だ。

そういう人ならでは空気感というのがある。どこか突き抜けているというか、崩れているというか、やさぐれている。『タクシードライバー』のデニーロのような感じ。一見、イイヤツなんだけど闇を抱えているのだ。

一方のショーケンは闇を抱えていない。どう粋がっても戦争を知らない若者でしかない。そういう意味では、彼の健全さは、ぼくらの世代とそう変わらない。

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山口組の三代目組長に、田岡一雄氏が就任したのが1946年。終戦の翌年だ。このとき戦前の「やくざ」は、「暴力団」へと変化したのではないか。

やくざはドスとサイコロであり、しょせん国内のケンカだった。しかし暴力団に吸収されていった復員兵たちは、艦砲射撃や機銃掃射による集団殺戮をくぐりぬけ、世界大戦の歯車になった人たちだ。そういう人たちの心の闇が、シャブや鉄砲玉(暗殺部隊)やコンクリ詰めといった戦後の暴力団文化を作り上げていったのではないか。つまり、今「反社」といわれているものは、太平洋戦争の最後のなごりなのではないか、ということを思った。

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