時代に逆らうのは無意味
数年前に、「人間の注意力持続時間が金魚よりも短くなっている」という研究結果が話題になったことがある。ただしこれには諸説あって、事実無根だとする人もいるようだが、ここではいちおうTIME誌に載っている記事を参照しておく。
注意力持続時間とは「ほかのことに気をそらさないでいられる時間」のことで、人の注意力持続時間は西暦2000年の12秒だったのが、2015年には、8秒まで落ちているそうだ。
どうやって調べたかというと、2000人の被験者の脳波を測定したのだそうである。ここまではいい。2000人の脳波を15年にわたって調べたのならば、ある程度意味のあるデータなのだろう。
しかし、記事には、「金魚の注意力持続時間は9秒だ」書かれているけどどうやって調べたかは書かれてない。まさか金魚の脳波を調べるわけにもいかないだろうし、このあたりはガセネタかもしれない。
いずれにせよ、「注意力がそれやすくなった代わりに、マルチタスクの能力は劇的に向上した」ということなのでマイナス面ばかりではない。
映画好きとして思うこと
ぼくもネットがなければ生活が成り立たないタイプなので、「ネットやモバイルはやめたほうがいい」とは思っていないんだけど、ただし一人の映画大好き人間として、今の時代の流れに思うところはある。ショート動画の台頭をやや危惧している。
映画は2時間、3時間があたりまえで、「ロング動画」なのだが、いまは世界中でショート動画が大人気である。またファスト映画というのも話題になったし、こうしたことは、注意力持続時間と関係がありそうに思う。
2時間、3時間、腰を落ち着けて1本の作品を見るより、1分ごとにカチカチ切り替わっていく動画の方が若い人の脳みそにフィットするから流行っているのだろう。
しかし、子どもの頃からショート動画に慣れ親しみ、「宮崎アニメは長すぎて腰を落ち着けてみていられない」みたいな若い人が増えていくとさびしい。
別な見方
ただし、マンガの世界は映画とは逆だった。マンガはショートマンガから始まり、やがてロングマンガが生まれた。元祖は手塚治虫である。そして、今も両者が共存しており、1コマ、4コマにも深い世界がある一方で何十巻も続くマンガの傑作も生まれ続けている。
これはテクノロジーの関わり方の違いではないだろうか。マンガは紙とペンさえあれば描けるので、昔から1コマや4コマを描くのはわけなかった。
しかし動画を撮影するのは、かつては大仕事であり、カメラマン、照明さん、音声さん、ディレクターなどなどいろんな人が力を合わせて撮っていたので、1分の動画などでは採算が取れなかった。
なので、長年「ロング動画偏重」になっていたのはまちがいなくて、むしろ、これまでの時代のバランスが悪かったのかもしれない。スマートフォンの登場で偏ったバランスが是正され、ショート動画にも光が当たりだしたのだと思えば、いいことだ。
とはいえ危惧もある
ただし、1000m泳げる人が50m泳ぐのはわけないが、50mしか泳げない人が1000mの泳力を付けようと思ったらたいへんである。5000文字の文章を書ける人が100文字書くのは簡単だが、100文字しか書けない人が5000文字書こうと思ったらたいへんだ。
同じく、注意力持続時間の長い人が短くするのはわりに簡単だけど、もともと短い人が長くするのは簡単ではないと思う。
時代に逆らうのは無意味
さて、これからAIの大規模言語モデルが普及することになるのは、決まっている。いい悪いではなくてそうなるに決まっている。
なので、いい悪いを言う気はないが、かつて自動車が普及して人の脚力が衰えたのと同じように、人の脳の力がなんらかの形で衰えるのはたぶんまちがいないし、それを避けられないのはみなうすうす感じているだろう。
それでも自動車は普及するし、AIも普及するのである。以前にも書いたことがあるけど、新しい時代の流れをせき止めて、古い時代に回帰しようとする試みがうまくいったことは人類史上一度もなく、すべて一時的な反動に終わっている。
水が高いところから低いところに流れるように、今回もそうなっていくに決まっているのだから、新しい流れの中で、新しい知恵の使い方を考えたほうがいい。
対立の構図を作らない
そこで映画に話を戻すが、ロング動画(映画)にはまだまだ可能性があるとぼくは思っているので、AIが台頭しようがどうしようが、未来のクリエイターには、おもしろいものを作ってほしいし、見せてほしい。
「こうすればいいんじゃないか」というアイデアがあるわけではないんだけど、1つだけ歴史を振り返ってみて思うのは、ロングとショートが対立概念みたいにならないように気を付けてほしいということ。
ロング v.s. ショート
みたいなムダな正面衝突をしないように、うまいこと回り込んでマンガみたいに両立してほしい。長い映画も10分~15分ごとに第1巻、第2巻、第3巻・・という形にする方法もあるだろうし、そうするとドラマみたいになっていくのかな。
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