陰謀論は骨董品みたいなもの
『メン・イン・ブラック』(97)は、エイリアンから地球を守る秘密組織(MIB)の活躍をえがいたコメディー映画である。
そもそも「エイリアンがいるのかどうか」「そういった勢力から地球をひそかに守る組織があるのかどうか」などいろいろ引っかかるわけだが、この映画は、陰謀論をアタマから全肯定してかかることで笑わせるというやり方だった。
うろ覚えだけど、次のようなシーンがあった。
主人公のエージェント2人組(ウィル・スミスとトミー・リー・ジョーンズ)が、「さて情報収集だ!」と言って新聞スタンドでタブロイド紙を立ち読みするのである。
タブロイド紙というのは、「エルヴィスは生きていた?!」的なことが書かれている大衆紙だ。日本でいえば、東スポや夕刊フジに近い。真っ黒なスーツにサングラスの二人組が、タブロイド紙をまじめに立ち読みしている姿が笑いをさそう。
しかし、これには笑ってすませられない面もある。
じつはバイデン疑惑も、当初は「ニューヨークポスト」というタブロイド紙に掲載されていた。これは、東スポがロッキード事件をスッパ抜いているようなものであり、あっさり信じることはできなかった。だが、その後、硬派のジャーナリストが食いつき、いまではかなり信ぴょう性が高まっている。
これはたくさんのガセネタの中にホンネタが混じっているケースである。
というわけで、情報収集のためにタブロイド紙を読むという姿勢は、一概にバカにできない。
SNSも同じだ。ジャーナリストが、大手メディアに掲載拒否されたホンネタを2ちゃんねる(5ちゃんねる)などに断片的に吐いて憂さ晴らしすることもあると聞いた。
『メン・イン・ブラック』の"情報収集"手法は、ある意味、芯をついている。
ぼく自身、15~6年前にグリコ森永事件の"真相"についての2ちゃんねる投稿をよんだおぼえがある。投稿者は、犯人とされる例の「きつね目の男」に近い関係にあると称しており、非常に長い投稿だったが、迫力があった。
彼の言うことが事実なら、うわさとはずいぶん異なる。北朝鮮説や被差別部落説などはまったくの見当ちがいで、そうしたつながりは一切ないと言っていた。ただし、韓国系の某大手食品メーカーが関わっていたそうだが、これは他の食品メーカーによる身代金支払いの証拠を隠ぺいするために、韓国の銀行口座を使ってマネーロンダリングをやらされていたようだ。
そのあたりに、日本社会の裏側がかいま見える気がしてリアルだった。
投稿者は、キツネ目が非常にアタマのイイ男だということをくりかえし強調していた。また、キツネ目はだれひとり傷つけるつもりがなかったにも関わず、警察が犠牲者を出したことでものすごく怒っていたということも書かれていた。投稿者がどのていど犯人グループと行動を共にしたかも、書かれていた。
本物のジャーナリストがこの記事に食いつき、投稿者に質問を投げていた記憶もある。それくらいの信ぴょう性はあった。
真偽のほどはわからないけど、仮にホンネタだとすれば、これもたくさんのガセネタの中にホンネタが混じっているケースである。
まあ、ホンネタかどうかはさておき一読の価値ありだった。ただし、今閲覧できるかどうかはわからない。
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というわけで、たくさんのガセネタに混ぜてホンネタを出すやり方ははあると思う。
一方、その逆もある。「たくさんのホンネタの中にガセネタを混ぜる」のは、情報かく乱の常道手段だ。知る人ぞ知るホンネタの中にガセネタを混ぜられると、事情通ほど引っかかりやすくなるのでタチが悪い。Qアノンもこれだろう。
というわけで、情報収集のためにあやしげな場所に踏み込むことは、ガセネタの中からホンネタを探すやり方として間違ってはいない。だが高等テクニックであり、シロートには危険である。ものごとの基本を押さえていなければ、ホンネタをつかんだつもりでガセネタに踊らされてしまう。
しかしSNSが発達してから、基本を放っておいて高度な領域に踏み込むやり方が先行している気がする。かつて基本と呼ばれたものは「大手メディア」とか「歴史の教科書」などと言われてバカにされる。それが、フェイクニュースや陰謀論の大繁盛につながっているのではないか。
たしかにホンネタよりガセネタのほうが夢があることが多い。骨董品みたいなもので、ほとんどがニセモノなんだけどたまに掘り出し物が見つかることがある。それを夢見て、大半の場合はニセモノをつかまされてしまう。
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