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「とりあえずビール」は消えつつあるのか
いま「とりあえずビール」の世界が消えつつあると思う。
ビールが消えつつあるというより、いろんな「とりあえず」が消えつつある。個人的な印象で言わせてもらえば、これは世界的な現象だと思える。
「鳥和え酢(とりあえず)」の思い出
どうでもいい話だけど、学生時代によくいった飲み屋が、わりと創作料理っぽいものを出す店で、そういうところは各メニューにもまともな名前はついていない。
鶏の唐揚げを頼みたくても「鶏の唐揚げ」はメニューにはなく、「鳥和え酢(とりあえず)」というのがあったので、毎回、「鳥和え酢」を頼んでいた記憶があるけど、あの店はもうないんだろうな・・。なつかしいなあ。
それにしても、”とりあえず"というたびに、30年以上前に食べた「鳥和え酢」を思い出すことになるとは思わなかったが、思い出というのは、何が残るかわからないところがおもしろい。
「とりあえず」とは?
「とりあえず」とはそもそもどういう意味なのだろう。
ビールだけではない。
とりあえず乾杯しましょう!
とりあえず飲みに行こう!
「ご注文は以上でよろしいでしょうか。」
「とりあえず以上でお願いします。」
などなど、様々な場面で「とりあえず」は使われる。ためしにでググって見ると
急いで、間に合わせの処置として。まずさしあたって。一応。
というふうに書かれているので、「とりあえず」は「間に合わせ」であり、「一応」なのである。
では、なぜビールが間に合わせで一応なのかというと、「とりあえず乾杯」したいからだ。
個々の意見をいちいち聞いていれば、「ビールよりもチューハイがイイ」だの「ウイスキーがイイ」だの「日本酒を飲みたい」だの「カクテルはどんなのがあるの」だのときりがないのだが、それでは飲み会がはじまらない。
そういう詳しいことは「後に回して」
さっさと乾杯しましょうよ
という気持ちが「とりあえず」となって表れる。細かいことは後回しにして最初だけスムーズにやらせてほしい、という暫定的な合意を求めているわけだ。いわば
オープニングセレモニー
をつつがなく乗り切るための便宜上の合意形成みたいなものだといえる。考えてみれば、「とりあえず」が話題に上るのは、だいたいオープニングの場面である。
宴が盛り上がってきたあとで「とりあえず」とは言わないし、おわりごろ、ぐでんぐでんになっているときにも「とりあえず」はない。
ステルス「とりあえず」
とりあえずと明言しない場合でも、暗ににとりあえずになっていることは結構あるので、ここでは「ステルスとりあえず」と呼んでおきたい。
世のなかで「ステルスとりあえず」的にで行われていることは結構多く、たとえば、家に帰ったら「とりあえずテレビ」を付ける人もいるし、とりあえずタバコに火をつける人もいるし、「最近、雨が多くて嫌になりますね」などと天気の話題に触れるのも
とりあえず天気について話しましょう
などとは決して言わないけれども、とりあえすやっているのはまちがない。あたりさわりのない話題で間に合わせている。
とりあえず野球
間に合わせと言えば、昨日の記事で触れた「野球の話題」なども、昭和を代表する「ステルスとりあえず」だった。
選挙の話をしてしまえば、相手が公明党員だったり、共産党員だったりすると困るが、野球なら安心だったのだ。しかしいま、「とりあえずビール」が消えつつあるように、「とりあえず野球」も消えつつある。
とりあえずアルコール
娯楽や好みが多様化しつつあるのは、先進国とか新興国とか関係なく世界的な傾向だと思うんだけど、たぶんインターネットとスマートフォンの普及が大きいのではないだろうか。そう考えると、「とりあえず文化」を消しつつあるスマホはすごいのである。
そのうえで、今日一番言いたかったのは、最近世界的になんとなく脱アルコールの流れが進んでいる気がすることである。
流行に敏感な人たちや、若い人ほどこういう流れになっている気がするけど、流行に疎い中高年男性はいまだに
とりあえず飲みに行こう
的な空気になることが多い。しかし、とりあえずテレビや、とりあえず野球とおなじく「とりあえずアルコール」も縮小傾向にある。ぼくも飲むときは飲むが、とりあえず飲む、という「コミュニケーションの入口」的な飲み方はしなくなってきた。
とりあえずスマホ
とはいえ、これが本当に社会の細分化につながっているのかどうか、本当のところはわからない。
上に「とりあえず文化を消しつつあるスマホはすごい」などと書いてしまったけど、「とりあえずTV」や「とりあえずビール」の代わりに
とりあえずスマホ
とりあえずSNS
は根付いているので、「とりあえず」そのものは不滅で、むしろだれも気付かないほど大きな「とりあえず」がうまれつつあるのかもしれない。
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