選択
「バスケ部、辞めたい。学校の成績も下から数えた方が早いのは辛い。せめて真ん中くらいでいたい」
中学生で勉強癖がそもそもなかったから当然のことなのだが、次の期末試験から赤点(平均点の半分以下)を取る人とクラス分けされていくことを知っていたが故に、その枠には入りたくなかった。
バスケ部を辞めると伝えると、母はスポーツより学業に専念することに大賛成だったが、
「玲子、バスケ部辞めるの?」
「うん、勉強についていけないし、バスケをやりたくて行くって決めたわけじゃないから」
「そうかあ、パパは川内高校のバスケ部のユニフォームを着て試合に出てる玲子を見たかったんだけどなあ」
「新人戦までは頑張ってみるよ。でも、新人戦に出ても気持ちが変わらなかったら辞めるつもり」
簡単に決めたことではない、と言うのを証明する他なかった。自分のことで両親の意見の食い違いが生じ、口喧嘩をされるのだけは勘弁して欲しかった。
新人戦、これまた気合が入っていないからかシュートは決まるし、リバウンドも簡単に取れる。パスカットや、スティール、シューターでもありセンターの仕事もできてしまう天才肌の迫智子との連携プレーがうまいこと行く。嫌だと思うと、塾やスイミングスポーツなど入会金を支払ってからでも辞めてしまうものだから、母には飽き性だと思われていることも知っていて、せめて、バスケ部のジャージを買う前に辞める、これが最後の試合、楽しむんだ!なんて思いながら試合に挑んでいたなんて誰も知らない。
「辞めます」
「そうかあ、それはきちんと考えて出した結論か?」
「はい。成績も悪く、文武両道とはいかなかったので」
本当は違う。朝から晩まで勉強とバスケもシンドイ、バスケ部の先輩の足は筋肉質すぎて、モデルになれないのではないか、長身で少しばかり身体能力が高かっただけでバスケには夢中になっていなかったこと、遊びの延長線上のバスケが好きだったというのを理解したこと、だけど相手が納得する言い分を言わなくては話がループする。
「本当に辞めるの」
「うん、今日言ってきたよ、先生に」
「田中コーチからさっき連絡があって、動物的なプレーであれだけバスケができるから、基礎をきっちりやれば良い選手になれるって。辞めさせたくないみたいだよ」
「でもバスケと勉強の両立は難しいし、インターハイ目指してる人には迷惑かけたくないんだよね。それに、このまま続けて、やっぱり辞めるってなったらお金もかかるから」
「パパとしては、お金がかかっても、好きなことをして欲しいと思ってることだけ忘れないでね。中学校から一緒にバスケ頑張ってきた迫さんは続けるんでしょう?」
「パパ、迫は元々頭良くてトップクラスにいるんだよ。私は次の試験で成績がこのままなら、赤点補習クラスに入れられるの。卒業さえできれば良いって思ってたけど、そのクラスの人がバスケしますって、結局バスケの練習時間にも補習を受けることになって参加できない状況になるんだよ」
「ま、自分が決めたことに後悔がないのであれば良いよ」
肩を落とし、静かに扉を閉める父の背中が妙に寂しそうで、申し訳ない気持ちも沸いたけれど、四の五の言っていられない。
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