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カエルの挫折

私が歌手として初めて挫折した時の話。

★★★自分のおごり★★★

当時、私はまだまだ未熟で経験も浅く
歌い手としては半人前どころか、それ以下でした。
しかし、既に多くの生徒さんを抱えており、
講師としてのキャリアを確実に積み始めていたので
自分を過信するには充分過ぎる状態でありました。

そんな折、
コンクールを受ける事を決めます。

まだまだクラシックの世界では『ハク』が大事で、
賞歴が必要だと当時は考えていたからです。
(後に、実力主義であることに気がつきますが・・・)

★★★某コンクールの予選★★★

コンクールの一次予選は音源審査でしたので『ライバル』の方々がどんな歌唱をするのかを聴く機会が無いまま二次予選へ。
そこで、初めて皆様の歌を聞く事になりました。

とある女性が歌われた瞬間・・・

・・・なんて豊かな声だろう
且つ、美しくどこまでも響く輝かしい音色。
なんて素晴らしい歌を歌うんだろう・・・

今までは緊張というものとは無縁だった自分が
その瞬間に心臓が飛び出しそうになるほど
緊張してしまった。

そしていざ自分の番

ドキドキし過ぎて息も続かず
心臓は今にも飛び出しそう。
声は震え、同時に膝も震え
何もできませんでした。
あんな経験は初めてでした。

あまりの不甲斐なさに
家に帰ってからオイオイ泣きました。

悔しさと
恥ずかしさと
何も力が出せなかったことと。

目が真っ赤になるほどに泣き腫らしながら
彼女の名前を検索しました。


★★★井の中の蛙★★★

名前はメモってきた。
MKさんだ。
当時はまだホームページやブログが珍しかった時代において、
運良くご本人のページを見つけます。

そこで彼女の経歴を初めて知る事となりました。

イタリアに留学し
イタリアの音大を主席で卒業し
尚且つイタリアのコンクールで
優勝していた。
(注:オペラはイタリアが本場)

・・・敵う訳が無かった。

彼女が今までどれだけ血の滲むような努力をし、
どれだけの苦難を乗り越えてきたのかを想像するのは容易でした。

そして、気がついた時には
MKさんにメールを送っていました。

あまりに歌が素晴らしかったこと、
自分が緊張でボロボロになったこと、
どれだけの努力をされたのかを感じた事、
とにかく感動したことを。

恥ずかしさや
照れなどは一切無く
ただただ、純粋な気持ちでした。

お返事を下さったMKさんは
私のメールに喜んで下さいましたが
何より感銘を受けたのは
彼女が放った

『私の声は宝です』

という言葉。
活字ではあったものの
そこには一切の迷いのない自信と
誰にも負けないほどに努力してきたという
確信が感じられました。
謙遜することが美徳とされるこの日本において
凛とした姿勢が眩しかった。

それに比べて自分はどうだろう?
20代の若いうちから「先生、先生」と持ち上げられて、
調子に乗っていたのではないか。
自分の中で『このくらい練習しとけばいっか』と
甘んじていたのではないか。
自分が益々恥ずかしく感じました。


★★★コンクール本選★★★

その後、奇跡的に二次予選を通過。
これはもう一度私にチャンスをくれたのかと、
その時から心を入れ替えました。

本選までの約一ヶ月、
今までに無いほど練習をしました。

とにかくレッスンを受け自分で練習し
来る日も来る日も
レッスンと練習に明け暮れました。
当時はまだYouTubeというのも無かったので、
情報を仕入れる事もまともに出来ず、がむしゃらでした。
まずは悔いの無いくらいに練習しよう。
その一心でした。

迎えるコンクール本選当日。

予選と違い、本選は大きなホールで緊張しましたが、
二次予選の時のような
ボロボロな出来では無かった。
決して技術が上がった訳では無いのですが

『悔いが無いくらい練習したんだから』

という、自分への自信に繋がった事で
少しだけ落ち着いて歌えたのかなと思います。

結果

MKさんは、さすが圧巻の演奏で
第2位に輝いていました。
本当に素晴らしかった。

私はというと、運良く
審査員特別賞をいただく事が出来ました。
喜ばしい事ではありましたが、
複雑な気持ちだったのを覚えています。
トロフィーを持って舞台上に並ぶ表彰式。
やり切って清々しい表情のMKさんに対し
やり切れていない自分が対照的でした。


今まで、自分の周り
それもごくごく狭い範囲の人達から
凄い、上手い
と言われていた事で
自分は特別なんだと思い込んでいた
未熟なカエル。

文字通り『大海』を知った時に
その波の大きさに見事に溺れました。

自分がどれだけ未熟なカエルなのかを痛感し
これからは外の海をもっと見ようと思い
徹底的に場数を踏もうと決心しました。

様々なコンクールを受け
沢山の予選落ちをし
様々なオーディションを受け
沢山の不合格をし・・・

そしてついに、某コンクールで優勝。
改めて
「やり切れた」と思えた瞬間でした。


納得行くまで練習をするという事を教えてくれた、
歌というものに真摯に向き合うきっかけをくれた
MKさんに心から感謝の気持ちです。

私のターニングポイントを経験したときのお話。

MKさん
ありがとうございました💖


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