《Ba.》ぼくは、楽器が弾けない3

 長い間うすらぼんやりとベースの音って心地いいかも!と思いながら、ライブ通いを続けていた私にちょっとした転機が訪れたのは、「ホフディランの春のベース祭2016」というイベントに行ったのも大きかった。ホフディランがベースにフォーカスを当て、ゲストベーシストを何人も呼び、自分たちの楽曲やゲストの楽曲を披露するというイベントだった。このイベントの時だけは、下手(ベース位置)からスペースが埋まっていくという正にベース祭。聞きなれたホフの曲もベーシストが変わればこんなに印象が違うの!という新鮮な驚きをもたらしてくれた。私が行ったときは、チャットモンチーのあっこちゃんやハイエイタスのウエノコウジさんが出ていて、ミッシェル時代にはまっていた自分にとって、ウエノさんがホフの曲を弾いているという目前の事態に、情報が渋滞していて大変混乱した(当たり前ですがホフディランも大好きなので)。

 そしてこのあたりからベースってめちゃめちゃかっこいい楽器では?という気持ちが強まり、気づけばベースを見ていることが多くなってくる。ライブでは自然と下手に生息してベースを見ることが増えてきた時、うわ~この人凄く楽しそうだな~というベーシストに出会った。背が高く腕も長い男の子で、しなやかで優雅に演奏するタイプだった。激しく動いても雑に見えない品のよさがあり、演奏している姿を見るのも好きだった。

 そしてこの頃から事あるごとに、友人から「ゆりちゃんベースやろうよ」と言われていた。彼女は好きなドラマーがいて、好きが高じてドラムを習い始めていた。そのうちだんだんと何故か「あなたもベースが好きならベースをやりなよ」という勧めにシフトしてきたのだった。しかし、ステージの上の好きなベースの子と、女性の中でも背が低く腕も短い自分の姿を重ねることは出来なかったので、友人の誘いは右から左へ適当に受け流していた。
 
 そうこうしているうちに、そのバンドを見に行った対バンイベントでめちゃくちゃ好みの音を出すバンドに出会ってしまった。エフェクテイブなベースがうねっていて悪くて最高だと思って即入信(※好きになるの意)してしまった。太い5弦のベースからゴリゴリと繰り出される低音とは裏腹に、音を出している本人はやや小柄めの好青年だった。しかしステージの上でベースを抱えた彼は存在感がありかっこよかった。時にベースを振り回すように激しく演奏しても失われない育ちのよさが垣間見えた。私は彼よりかなり身長も低く腕も短いけれど、それでももしかしたら、あんなふうになれるんじゃないかな・なりたいなと思わせてくれる力があった。これが丁度一年程前の話だ。

 そのバンドに夢中になると同時に、耳の奥で友人の声がこだまする。「こんなにベーシストばっかり好きなんだから、ゆりちゃんもベースはじめようよ」……こわい。逢うたびに持ちかけてくるその根気と、なによりも彼女の口からこぼれる「憧れの人と同じ経験をすることで得られるメリット」の説得力がすさまじかった。それもそのはず、どれも彼女の実体験から得られた感想だから、説得力は鉄板並みである。この声は、だんだん無視することが難しくなっていった。

 しかし私は前述(※参照 https://note.mu/yurivsky/n/na00228ca72f5 )の通り、生まれてこの方楽器に対する心理的ハードルがすさまじかった。苦手意識に凝り固まっていた。聞けば、友人はピアノを習っていたという。対して私は音楽アレルギーの塊。どうせ恥をかくだけだし、バンド組みたいわけでもないし、始めても続かないかもしれない。大体ライブに行くのに忙しくて、そんな金銭の余裕も時間の余裕もない。やらない理由探しをしながら、ひっそりとベースについてネット検索をする(まず知識が欲しいタイプ)。そのたびに、ほら私にはやっぱり無理だよという言い訳をしながら2018年を迎えることになる。

 おやおやまだベースは触っていませんね。本当にいつになるんでしょうか…

アマノフーズのスープセット買います。