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仕事の手の抜き方を教えてください

いや、本当に忙しすぎるのだ。

「仕事の手の抜き方を教えてください」と、後輩に真面目に真剣に聞かれたとき、どのように答えるだろうか。
私は先輩にあたる立場にはあるが、彼に直接仕事を振る上司の立場にあるわけではない。自分にもそれなりに仕事は振られてきて、それを粛々とこなしている。経験という意味においては、私のそれは彼よりも多いのは事実であり、その分彼よりも早く仕事を終えることはできていると思う。
そんな私は彼にとって「仕事のできる先輩」に見えているようなのだ。どうしてそんなに早く終えられるのですか、と聞かれたときに、俺の仕事は適当だからと答えた。私の言う"適当"というのはいい加減にやっているという意味ではない。時間をかける仕事と時間をかけない仕事に分けて、時間をかけずに済むものは徹底的にかけないようにしている、という意味だ。様々なご意見があろうが、私は仕事に軽重をつけている。

たしかに、経験年数が浅いうちは、どの仕事が重くてどの仕事が軽いのかというのは判断しにくい。それを見極められるようになるには、やはり経験値を重ねていくしかない。だから、その後輩を見ていて、もっと効率よくやれば良いのにとか、それはそんなに丁寧にしなくても良い報告だから、別のことに時間をかけても良いのにとか感じるが、あえて私から口を出すようなことはしなかった。

が。

あるときその後輩と雑談をしていたら、ツゥーと涙がこぼれた。いや、本当に忙しいんだな。気づけばその後輩のデスクは付箋で埋め尽くされていた。どの仕事からすれば良いのか?期限は?種類は?優先度は……?いっぱいいっぱいだった。
経験というものは本人が積むしかない。周りはその人に任せて積ませるしかない。だが、レベル10で竜王には勝てない。ドラクエならゴールドは半分になるけど生き返ることができる。しかし、現実はそうはいかない。その後輩は、潰れていくしかない。
だからといって上司に進言することもできない。上司たちは彼の涙を知らない。彼がどれだけがんばっているのかもどれだけ困っているのかも知らない。

経験を積ませるということは、人を育ててるということだ。人を育てるには、それなりの責任を負わなければならないだろう。
最近の若者は……なんて言われ方をしているのをよく見かけるが、私に言わせれば、最近の上司は……である。
いや、これは最近に限ったことではないのだろうが。

自分が駆け出しだった頃、私は彼と同じように悩んでいた。睡眠時間もほとんどなく、毎日辞めたいと思いながら勤めていた。だが、幸せなことに12歳年上の先輩が何のことない言葉をかけてくれたり、ときに仕事を見せてくれたりした。それが、私にとってものすごく大きな時間だった。今私があるのは、その先輩のおかげであると言っても言い過ぎじゃない。今の自分の仕事のやり方のベースとなっている。
大事な仕事はとことんやる。時間もかかる。
簡単に済ませられるものは簡単に済ます。そこにこだわりすぎない。

家庭も大事にしながら、確実に仕事をしていたその先輩は、私の憧れであり目標であった。

今、私はその時の先輩の年齢をとうに越えてしまっている。だが、あの時の先輩のような実力を兼ね備えられたかというと、全くまだまだだと思う。

悩んでいる後輩に私の昔の話をした。
先輩にもそんな時があったんですか!?と驚いていた。
あったあった!たくさんあった!悩んだし、辞めようと思ったし。
後輩は、なんだか安心しましたと言った。仕事の多さよりも、自分にはこの仕事は向いていないのではないか、という方が悩みとして大きかったようだ。そんなことはない。誰だって、最初から完璧にできるわけではない。
直接彼の仕事を手伝ってはあげられないが、こんな話をすることで心が軽くなるのだったら、と思うと私も少しは役に立ったのかなと感じている。


(だが、未だに彼の悩みに上司は気づかない。どうしてそんな人が上にあがっていくのだろうか。)

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