緑色の髪にして、なにかを突破した
変わった上司に恵まれた。
「もっと自分らしいファッションにしなさい」「母親だからって、自分に構わないのがいちばん悪い」「やりたいようにしなさい」「まず自分を満たしなさい」
言葉を沢山かけてもらった。
余計なお世話だよ!という思いも大さじ1杯くらいはありながらも、上司にもらった言葉はわたしに染みた。
しおれぎみの草に水をあげるように、毎日じゃぶじゃぶ水をかけてもらい肥料を与えてもらった。
変わりたいな、と思った。この世界にはたくさんのファッションがあるし、美容があるし、美しくなるための色んな技術があるし、色々体験するのもいいかも。はじめてのことを沢山したい。
それで、見てくれを色々と変えた。
はじめに、ピアスを開けた。
旅行に行って、ぶりんぶりんの大きなピアスを買ってホテルですぐつけたい。ケニアに行ってバリに行ってそのあたりの路上や海岸で売ってる民族風のピアスを買いたい。
失敗して左の穴から流血した。病院に行った。右耳穴は仕上がって今はかわいいパール風のキラッとしたものが耳に刺さってる。いつだってケニアに行ける。
パーマをかけたことがなかった。かけてみたかった。いつもどう切ってもくせっ毛で内巻きになってしまうから、ゆるい感じの、なんかニュアンスって言葉が似合いそうな、そんな髪型をしてみたかった。
やってみた。パーマ液はいい匂いがした。ちょっとぶりぶりしていたが、可愛くなった。
朝何もしなくても、「無造作でおしゃれで大丈夫!イエーイ大勝利!」ってクシも通さないで在宅勤務していたら、
zoom会議中「お互い頭ボサボサだね!」って言われてハア?って言った。
個性的でテンションの高まる服を着たいと思った。岡本太郎とか現代アートが好きなわたしは、ツモリチサトが好きだ。大変に高い。メルカリにお世話になることにした。
青いニットにキラキラした星やらハートやらスパンコールやらがたっぷりつけられた、いわく「人生を謳歌する候」といった高まりと激しみのある服を選んだ。3000円で高まりを買えた。
もっさりしたわたしの顔ではなかなか着こなせていたとはいえないが、この冬元気をもらった。「あら!雰囲気が変わったね」と職場のいちばんえらい人に言われた。
髪を緑色にしたい、と思いついた。
これは、怖かった。
平気で髪の毛を緑色にできたらいいな、と思った。
でも、私はお母さんだし。保育園の送り迎えとかするのに。先生に流石に「げっ」て思われるのではないか。私の帰った後に、こっそり「お母さんなのにね」「ほんとね」と陰口を言われるのではないか。
4月からは、幼稚園に入るのに。
「あのお母さんはなんかちがうわ緑色だから」と仲間はずれにされるのではないか。友だちができないのではないか。
それに、実母にはなにか言われるに決まっている。母は無難で落ち着いたものが好きだ。薄いベージュとかが好きだ。
緑色の髪の毛なんてしていたら、「うわ」って言われるに決まっている。
そういった想像上のクソリプについて、私は本当に怖かった。
「平気で緑色の髪の毛にデキる人になりたいな」と上司コバヤシに言ったとき、コバヤシはけろっとしていた。
「みんな!ゆりおが髪の毛緑色にしてきたら嫌いになる?」
とか聞いてた。
いや、そんなこと聞かれて「まじありえないっすソッコー無視ですね!」なんて言えるわけないじゃないか。「そんなことないよ」の恐喝じゃないか。やめてくれよ。やめてくれよ。
そう思ったけど、
みんなが口々に「緑色、みてみたいです」「嫌いにならないです」と実際に声に出して言ってくれるのを聞いてたら、なんだか泣けた。
ああわたしはいつまでもいつまでも、誰かに嫌われることを恐れているんだなあ。こわいもんなあ。好きですよみたいなニュアンスの事言われると、ああうれしいよな。
そんなことがあって、しかも毎日が在宅勤務で退屈すぎたことが背中を押してくれた。
在宅勤務で鏡を見るたび緑色の楽しげなヘアの自分が写っていたらうれしくなるだろうな、と。
すぐに美容院を予約した。
もう10年くらい通っている小さな美容院だ。
店主の50代のおねーさんと、いつも話すのが楽しみだった。
緑色を用いたさまざまな写真をおねーさんに送り、変身したいんだ、こんなのはできるかな?とLineで相談した。わたしはヘアカラーを美容院でやるのも初めてだったので大変はりきった。
しかし、思わぬ事態になった。
当日、染め上がってみると全然緑色になってないのだ。
相談の結果、髪全体を茶色にしてポイントで緑色を使用することになったのだが、全体は茶色に染まっておらず黒のままだし、緑色のはずのところが茶色くなっている。
ねえ、染まってないよ?
「かわいいよ」
とおねーさんは言った。
たしかに、これはこれでおしゃれだな、と思える感じのヘアではあった。久しぶりの茶髪だし。
お金を払った。
でもそのあとで、
「緑色楽しみにしてますね!と言ってくれた職場のみんなの顔が浮かんで。
やり直してもらうことにした。
「こんなのはできる?」画像検索した写真を色々送りつけるが、おねーさんは「できる」とは言ってくれなかった。
不安だった。ヘアカラーって、なんて言ったって3時間位かかるのだ。
そのあいだ、夫に子どもをみてもらっているのだ。お時間とエネルギーの大判振る舞いしていただいてこその美容院訪問なのだ。
やり直して、またできなかったらどうしよう?
と不安に思いつつも、さりとて10年近い付き合いになるおねーさん以外の美容院でやるなんて、大変なことである。大変な裏切りに思える。
うーんと悩んで、もう一度信じて見ようと思った。これでだめだったら、他のところにお願いしようと決めて。
結論から言おう。
2回めも、やはり失敗した。びっくりした。
全然緑色じゃないし、染めて3ヶ月くらい経ったみたいなプリン頭になった。
思わず泣いた、まじで泣いた。
「おねーさんのことは大好きだけど、この髪はほんとうに好きになれないの」といって泣いた。
おねーさんは、「私が気に入るようにできないのが悪いんだから」よくあることだからと言った。
私はこの日最後の客だったし、笑顔で終えたかっただろうな。後味が悪いだろうなと申し訳なかった。あんなに楽しくお話して、コーヒーまで入れてくれて、おまけにチョコもくれたのに。
しかしながら、泣いたらさっぱりしたので次の展開を考えた。
たぶんおねーさんはカラー苦手だな!仕方ない。
時は満ちた。
今こそ、長年のしがらみから解き放たれ、新たな旅に出るときだ!
実は、前から気になっている美容院があったのだ。
知人が紹介していて、前から気になっていたサロン。飲食店の許可も取っていて、ビールを飲みながら髪をいじってもらえるらしい。
西八王子のラブズというところ。
早速予約した。
予約の日はまだ先だ。
まだ気に入らない茶髪で出勤すると、
上司に「髪染めたの?いいじゃん」と言われた。
「染めたんだけど、気に入らないからやりなおす予定なんです」と答えると、
「いいね!気に入るまでやろう!」
と言ってくれた。
この上司は、本当に、なにか言葉を投げると漏れなくポジティブな色つけて返してくれる、本当に大変なことです。
「誰がなんと言おうとも、自分の好きなことをやるのがいいよ」
当日行ってみるとお店の前には爬虫類の巨大な置物があり、担当の美容師さんはふわふわロングヘアで、女性かと思ったら男性で、スタイリッシュなパンツにふわふわロングヘアがめちゃくちゃ格好良くて、ハローニューワールド!という感じのお店だった。
仕上がりは素晴らしかった。
そうそうこういう感じの色にしたかったの!という感じの私の好きな茶色だった。
インナーカラーに、カーキに近い柔らかい緑。
私の薄い顔立ちにはこういう緑が似合うな、と思った。
嬉しくて嬉しくて、何万でも払えるわ!という気持ちになった。
私の予想に反して、派手目な髪は、周りからも好評だった。
すごくいい色だね、素敵じゃん、かっこいい、と母や叔母や義理の弟などから言ってもらった。驚いた。
「母親だから」「母親なのに」なにか嫌なことを言われるのではないか、思われるのではないかという恐れは全くもって大丈夫なやつだった。
鏡を見るたびに、楽しそうな髪の人が映る。
私は明るく楽しく生きるんだ、という気持ちを思い出す。
多分、周りからもそんな風に見える。こうやって自分は作っていけるものなのね。
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