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帰ってきた歯ぐき

芸人のノブが歯のホワイトニングをしているという。

『人志松本の酒のつまみになる話』をみていた私は「なんかすごくいいかも!」と思った。ノブ氏、齢43歳。歯が白いとすごく若く見える。
人の前に出ることを意識したら、美しくなろうという方向になるんだろう。本当に素晴らしい。

私の歯は白くない。
1日中コーヒーを飲んでるくせにあまり歯磨きもがんばらないから、前歯を中心に黄ばんでる。人の前に出る気がないとしか思えない。

そういえば自分の笑顔も好きじゃない。歯を出して笑った自分の写真が嫌いだ。なんか気持ち悪いと感じるのは、歯のせいかもしれない。

歯が白くなったら、自分をもうちょっと好きになれるような気がしてきた。

調べてみるとわりと近所にサロンがあった。
実は過去に歯医者のホワイトニングをチャレンジしたことがあったのだが、自宅で専用の型にジェルを精密に入れて装着して2時間ものを食べられない というタイプの生活を迫られるもので、なかなか続けられなかった。

今回見つけたのはセルフタイプの、ホワイトニングサロンである。そういうのもあるんだな。
1回でも結構白くなるらしいということで、期待大である。

体験を予約した!

前日には歯医者に行き、歯のクリーニングをすませておいた。

簡単な汚れは落としていったほうが、歯がごりごりに白くなってお得なのではないかという算段である。


さて当日。
サロンに行くと、やたら美しい男の人が出てきて、半個室に案内された。

まずはじめに、歯茎を全開にさせられる。

何を言っているのかわからなかったと思うのでもう一度書いておくが、

まずはじめに、歯茎を全開にさせられる。

カーブのついたプラスティック、見た目からして凶暴なその器具、「オープナー」というらしい。これをはめるように言われるのである。
口の中に入れて右奥から左奥まではめこむと、全ての歯と歯茎がまるみえになるという代物である。私の黄ばんだ歯も端から端までご覧になれる状態となった。

イケメンスタッフさんは慣れたもので、歯茎丸見え羞恥心全開器を装着して挙動不審になっている私にも淡々と接してくれた。
おそらくこのスタッフの研修を想像するとするならば、「丸見えになっているお客さんのはぐきを笑ってはいけません」とまず書いてあるのだろう。

淡々と「あなたの今の歯の色はこれですね、これくらいにはなれると思います」等、丸見えになっている私の歯と、歯の色見本を指しながらお話をした。

どんな煌びやかなモデルや女優さんもこの歯茎丸見え器をつけて羞恥心を乗り越えて美の丘に渡っていると思えば同志、人類みな友達であると思える。

やり方を説明されて、道具を渡された。

え〜歯を磨いて、水分をふきとって、ジェルを歯の一本一本に塗る。

はあ、この白くしてくれる素晴らしいジェル、一滴も無駄にするまいと思い、まずは執拗に歯の水分を拭き取った。

丹念にジェルを塗っているとまたよだれがでてきて破綻するので程々にするのがポイントである。人生は…何事も…精密に根を詰めすぎないのがコツである…できてない。

さて、ほどほどにジェルを塗ったら、スタッフさんを呼ぶ。
ジェルを塗った歯に、光を当ててくれるのである。

下ごしらえをした私の歯を点検した上で、スタッフさんはおもむろに両手を天に掲げる。
「歯を白くしたいあなたの魂に、光あれ!!!」
スタッフさんは神に祈りを捧げるかのようにうやうやしく、スイッチを入れた。

私は光に包まれた−––。

少し嘘を書いたが、これを何回か繰り返した。私は3たびよだれを拭き取り、ジェルを精密に塗り、自分の完璧主義具合に折り合いをつけながら光を吸収した。

やがて私の歯は、6トーンくらい白くなった。
スタッフさんも驚くくらい効果がかなり出た。

帰宅後、用もないのに鏡に向かってニカって笑い、白くなった自分の歯を愛でた。
母にも「綺麗になったね!」と言われる奇跡が起きた。

「汚かったもんね!」と余計なことも言っていたが、「私もやりたい!」とまで言っていた。
白い歯はみんな好きである。清潔さ、美意識、若さの象徴である。
まだまだ人前に出ていくぞ、というマインドになれる。

何回か通うと白さが定着する、と言われたのでそれから3回くらい通った。

私は歯茎丸見えになっても、ものともしない新たなマインドを獲得した。

しかし、施術3回目で、ジェルを執拗に塗りすぎたために、歯茎を少しやけどしてしまった。

施術直後は気づかなかったのだが、元気よく歯を磨いていたらすごく痛いし、歯茎の色が一部白っぽくなってしまい、ショックを受けた。

ああ、失われた、私の、健康な歯茎!!

大騒ぎしたのだが、サロンに連絡し写真を送ると、数日経てばよくなる、と言われたので、待つことにした。

すると本当に治った。ありがとう、おかえり、私の歯茎。

ホワイトニングは最高なのでやったほうがいいと思う。
歯茎には塗ってはいけないので、ほどほどに。

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