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茶酵令嬢双書ルミューリア編☆第53note『溺れる王に仮初の薔薇は笑い~茶酵令嬢は世を”秘”する~』


祀煎(壱連) こよなき瞳に馳せるは・・・。


「お母さま。お母さまのご婚姻の式は素晴らしかったのでしょう?」

「まあ急にどうしたの?」

「今日メイア達が話してくれたの。」

寝台に横になっている幼い娘のつぶらな瞳がこころなしかキラキラと輝いているような気がしたのはそういうことだったのね、と思いながら彼女は娘の肩まで布団をかけた。

ああ、全くメイアったら侍女たちのおしゃべりが盛り上がったのかしらね、と可愛い侍女たちの小鳥のようなさえずりを思うとクスっと笑いが込み上げてくる。
そして、可愛い娘の歌声のようなおしゃべりもまだまだ止まらないようだ。

「お母さまとお父様は”世紀の恋”と謳われているって。お式は大陸中のたくさんの方たちからお祝いされたんだって。メイアが言ってたわ。お母さまがとってもとってもお綺麗だったって。」

ふううと、興奮でピンクローズに染まった頬がなんて愛らしいのかしらと彼女は娘を見つめる自分の胸がまたしても、きゅうんと鳴るのを感じた。

「まあありがとう。さあ、セレティ。もう目を瞑る時間よ。」

「お母さま。今度お話聞かせてくださいね。ね?」

「ええ。そうね、分かったわ。さあ、良い夢を見てね。」

彼女は娘の頬を優しく撫でるとおやすみのキスをして、部屋を出た。


彼女が自室に戻っても彼はまだ執務室から帰ってきてはいなかった。
彼女の中で、先程の娘との会話の余韻はまだ消えず心にさざ波が揺れる。

「”世紀の恋”か。」
そう呟きながら、気付けば窓を開けてバルコニーに出ていた。

今日はまた一段と星の輝きが綺麗だわ。
星屑が散りばめられたかのような夜空の向こうに遠く思いを馳せる自分を感じながら、どこか胸がぐいっと締め付けられる自分がいるのも分かる。

”ほんとうの、それは。きっと…”



祀煎(弐連)オムニア・テンプス・ハベント~連々たる繚乱の・・・華燭を捧ぐは、ただその時にこそ。(前)


ルクスの祝福を受けるこの良き日に婚姻の儀を執り行うのは、マラーケッシュ公国第二王子ニカルス・テラヴィッテ・マラーケッシュとエーリガント帝国第一皇女エリカ・フォストヘッセ・エーリガッシュ。
この婚姻の儀典は大陸の歴史の中でも稀有なものとなった。
まず第一に、ケントガーランディ神光領の頂・ルクスの代理人であられる神皇猊下が、この二人の婚姻がルクスの光の元にあるということの証明(あかし)として神聖なるケントガーランディ神光領の神殿にて御身をもってその祝福を授けてくださるということ。これは大陸のどの国の高貴なものですら授かったことのない栄誉であった。

そしてそのことを受けて動いたのはエリカ皇女の父であるエーリガント帝国皇帝ウィルシェドラン・フォストヘッセ・エーリガッシュであった。
彼は、大切な愛娘の晴れ舞台を整えるべくエーリガント帝国の持つ力だけでは飽き足らず、アクリラウム=アカデミーの聖魔士達の協力をも仰ぐ。
そうして大陸の最大の聖魔力と最先端の技術が集結した結果この麗しの儀典は大陸中の人々に映像として届けられることとなったのである。


その日、大陸中の人々が各国の至る所に設置されたその魔具に映し出されたケントガーランディ神光領の神殿の映像に拝まんばかりに見入っていた。
そして神殿に設えられた席に居並ぶのは神光領であることから限られた人数ではあるがエーリガントとマラーケッシュの皇族王族の面々。
エーリガントからは皇帝ウィルシェドランとその親族である皇族、エリカ皇女の弟妹達等が。マラーケッシュからは体調が優れない国王の代理として公国王太子であるフェデルス第一王子とその婚約者、アミラ王后と第一王女ジュリビッシュが参列している。

そして今、神殿の祭壇を囲うように施された聖魔の輪の中に煌々と降臨されたのはルクスの代理人であられる神皇猊下。熟年とも若年とも見てとれるかのような御姿で光の中に浮き出たかのようなその方の微笑みは達観ともいえる微笑みに思い切り人間味が入り混じった温もりを讃えていらっしゃる。
そこに居並ぶ者達、映像を見つめる大陸中の人々その全てが神皇猊下に敬虔な眼差しを向けた。
と、同時に猊下を護るかのようにその後ろに現れ猊下に跪いていたのはケントガーランディ聖騎士団の者達だった。
常に猊下の護衛として在るべき存在である聖騎士団の者達は猊下の陰に隠れるようにしてその周りを護っている。

いつのまにか神殿の上部からは花びらが舞い降り身体の芯を震わすような心地よい音楽が奏でられている。そしていよいよ主役の二人がこの聖なる場に登場する。

溢れんばかりのフリルと繊細な刺繍で編まれたレースが幾重にも幾重にも重ねられたロングトレーンのドレスにも、ドレスの長い裾の後ろに波のようにたなびく繊細な刺繍レースが施されたヴェールにも、それら全てに果てしない数の真珠とダイアモンドが縫い込まれている。
その煌めきはまるで純白の華繚乱そのもののよう。

そして純白のレースと宝石の煌めきで覆われたウエディングドレスを身に纏った可憐な花嫁エリカに、花婿であるニカルスが『”dozen rose”12本の薔薇の誓い』を捧げる。
彼は彼女の耳元で囁くようにこう言った。

「エリー。今日のこの光(ルクス)の神聖な婚姻の誓いと共に、どうしても君に、この12本のオレンジの薔薇(誓い)を贈りたかったんだ。
これは僕の心の全てだ。
今までも、これからも、ずっと君を愛しているよ。」

想像(おもい)もしていなかったニカルスからの贈物に、エリカは驚きと共に自分の心の芯があまりの歓喜に震え始めるのを感じそれが涙となって零れ落ちそうになるのを堪えて微笑もうとする。
彼女は自分の手元のオレンジ色の薔薇たちから1本を抜き取り、ニカルスの胸元に飾る。

「私もよ、ニカ。
今生のあなたも来世のあなたも愛さずにはいられない。」

神光猊下の前で婚姻の誓いの儀は執り行われ聖なる絆を結んだニカルスとエリカに、黄金(ルクス)の祝福が舞い降りる。
しあわせな、しあわせな、薔薇たちよ。
互いに互いのオレンジ色の”信頼(ばら)”を託された、しあわせな、しあわせな。



 

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第1noteに~第52noteまでのリンクを載せています。




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