かみさまはうそつきなの? 第2note 『いのり』
ぼくはぴーすけ。
ぴーちゃんじゃなくて、ぴーすけさ。
ぼくは生まれた時、たくさんの仲間といたような気がする。
そこにいたのは、赤、白、黄色、緑に青、みいーんなぼくみたいにコロンと丸い豚だった。
そこはぼく達みたいにたくさんの色々な動物たちがいる場所で、ぼくはライトが眩しいなっていつも思ってた。
そしてその場所で、ぼくとぼくの仲間達は、いつも何かを待ってたんだ。
そう、それはぼく達を連れて帰ってくれる新しい家族。
ぼくは仲間達と遊んだり、話したりしながら、その日を待っていた。
ある日、うとうととお昼寝をしていたぼくは自分の身体が宙に浮いたのを感じて目を覚ました。
そう、僕はたくさんの手に触れられ抱き上げられて、なんだかくすぐったいなって思った。
そうしたら今度はぼくの身体はどこかに運ばれて、ガサガサって何かに包まれたから、ぼくは手足をもじもじさせながら窮屈だなって思ってた。
でも少ししたら、またガサガサって今度はぼくの周りは広くなって、でも急に眩しくて目を瞑ったんだ。
そしてぼくが目を開いた時。
そこで目にしたのはくりくりっとしたかわいい瞳だった。
「わあい、ぶたさんのぬいぐるみ。うれしい。ありがとう。」
そこに居たのは小さな男の子だった。
その子はぼくに、「ぴいすけ」って名前をつけてくれた。
ぼくはとってもとっても嬉しかった。
だって、ぼくに家族ができたんだもの。
ちょっと舌足らずなあの子は「ぴいすけ」って上手く言えなくて、でも、一生懸命に「ぴーすけ」って呼んでくれるあの子のふんわりした優しい声が、ぼくは、とてもとても大好きだった。
男の子は、いつも僕と一緒にいてくれた。
寝るときも、起きる時も、ごはんを食べる時も。
ぼくはその子が大好きで、何度もごはんを食べる真似をして、その子を喜ばせたんだ。
いつも一緒に遊んで、いつもぼくはその子の胸の中にいた。
そこはすっごく柔らかくて温かくて、すっごく気持ちいい・・・。
ぼくはその子が大好きだった。
いつもぼくはその子にキスをするんだ。
おはようのキス。おやすみのキス。
大好きのキス。
ずっとずっと・・・・一緒だよ。
その子の言葉にぼくはうっとりとして眠りにつく。
あれがいつの日だったのか、ぼくにはもう思い出せない。
ただ覚えているのは、あの日もぼくはあの子と一緒にお出かけしたんだってこと。
あの子にぎゅっと抱かれて、ゆらりと揺れながら、ぼくはうとうとと眠りについた。
寒い。
ぼくが目を覚ました時、ぼくは薄暗いところにひとりぼっちで転がっていたんだ。
「ここはどこ? どこなの?ぼくのあの子はどこにいったの?
ぼくはどうなったの?」
ぼくは一生懸命心の中で叫んだ。
でも、ぼくの声はだれにも届かない。
たくさんの人達がぼくの側を通り過ぎて行った。
ちらっとぼくを見る人もいれば、全く気付かず急いで歩き去る人
ぼくはたくさんの足とたくさんの靴を見ながら、あの子の足を、あの子の靴を、あの子のあの声を探す。
毎日、毎日・・・・。
あの子はきっと来てくれる。
あの子はきっと僕を探して歩き回っているにちがいない。
お母さんに何度言われても、きっと、あの子はぼくを必死で探しているだろう。
ぼくは涙を浮かべてぼくをさがしているあの子の姿を思い、胸が痛くなる。
ぼくは、ここだよ。ここにいるんだ!
どうか、あの子がぼくを探して歩きすぎたりしていませんように。
どうか、あの子が風邪なんかひいていませんように。
そして、どうかあの子とぼくが早く会えますように。
ぼくはあの子を思いながら毎日毎日を過ごした。
来ないのかもしれない・・・。
初めてそう思ったのはいつだったろう。
あの子はぼくをみつけることができなかったんだ。
ぼくはもうあの子に会えないんだという実感が、ぼくの胸に押し寄せてきた。
ぼくは悲しくなった。
誰か。
ねえ誰か。
ぼくがここにいるって、あの子に伝えておくれよ。
誰か・・・。
ぼくは地面から必死に上を見上げながら、ぼくの声に気付いてくれる誰かを探して、心の中でずっと叫び続けた。
ずっと。
そして・・・・。
ぼくは、ぼくを通り過ぎる足を、靴を見るのを止めてしまった。
そう、あの子を待つのを止めたんだ。
ぼくは道端に転がって、今日もずっと空を見ている。
空が青いなあと思いながら、雲があの子の顔に見えて来て。
そうだ、とぼくは思い出した。
それはいつだったか。
ぼくのあの子が、お母さんに読んでもらった絵本をぼくによんでくれたっけ。
ぼくは転がって空を見上げながら、なんでかそのことをぼんやりと思い出していた。
あの子は、なんて言ってたっけな。
そう。
「ぴーすけ。お空にはかみさまがいるんだよ。
かみさまはお空の上から、ぼくたちを見ててくれてるんだって。
お空って・・・。
かみさまって・・・。」
もうよく思い出せない。
でも、もしお空にかみさまがいるのなら、ぼくを見てるのなら。
ぼくを、あの子に、会わせて・・・。
ああ。
もう、いつからここに転がっているのかも分からない。
ぼくはぼくの側に咲いている草みたいに、ずっとここにいるのかな。
ずっと・・・?
でも、ずっとって、いったいいつまでなんだろう?
ぼくはもう空を見上げることも止めてしまった。
ぼくは一日中眠っている。
時間が早く過ぎてくれることだけを思って。
道端に転がったぼくがもう何も感じなくなることだけを願って、ただただ眠りにつく。
ぼくは夢であの子に会っているのだろうか。
眠っているぼくをそっとあの子が抱き上げた。
ああ。
ぼくは夢を見ているのだ。
いつものように、目覚めた後、もっともっと悲しくて寂しくなる夢を。
夢は優し気にぼくをあの子の元へ運ぶけれど、とても残酷だ。
だって、夢の中のあの子の笑顔に僕はあったかくなって、でもそのうちいつも、その夢は霧のように僕らを迷わせて僕の心を寒くさせる。
そして、その寒さに目を覚ました時、僕の心は悲しみに凍えそうになるんだ。
だからぼくはもう夢なんか見ないって、だいぶ前に決めたのに。
今日はどうして夢を見てしまったのだろう。
ああ。
ぼくの心が自分の心を守ろうと、これは夢さ、と自分に言い聞かせようとしたその時、ぼくはふと気づいたんだ。
どうして、こんなに温かいんだろうって。
ぼくの夢はいつもあの子との思い出で満たされ、とってもきれいだけど、とっても冷たい氷の結晶のようなのに。
この温かさも夢なの?
ぼくはぼんやりとした自分の頭をゆっくりと起こそうと思った。
でも、でも。
こんなに温かくて気持ちの良い夢なら。
・・・ぼくは夢から目覚めたくないな・・・・
「ねえ。ママ。いいでしょう?」
なんだか声がする。
「ママ。うちに連れて帰ってもいいでしょう?」
え?
ぼくはその声に驚いて目を覚ました。
「ねえ。ママ。いいでしょう?おねがい。おねがい。」
ぼくは女の子の胸の中にいる!
これは夢なの?
いいや、違う!夢なんかじゃない。
女の子が僕をぎゅうっと抱きしめてくれたその温かさは夢なんかじゃない!本物だった。
ぼくの頭はパチンと音を立てて覚めたかのようだった。
ぼくはその子を見た。
とてもかわいい女の子。
そして、その子は誰かに一生懸命話をしている。
ぼくはちらりっと周りを見回した。
お母さんらしき人が、少し困ったかのような顔で女の子を見ている。
その側に、お兄ちゃんらしき男の子が立っていて、お母さんと女の子を見ていた。
僕の胸はドキドキとしてきて、もう全部を諦めて冷え切っていた身体と心にちょっとだけ、ちょっとだけぽわーって温もりが戻ってきたみたいになった。
ぼくのそんな気持ちにお母さんの声がかぶさって来た。
「ダメよ。そのぬいぐるみは、誰かの忘れ物かもしれないでしょう?
(ああ、そうだよ。ぼくはあの子の忘れ物なんだ。)
このぶたさんは、誰かの大切なぬいぐるみかもしれない。
(そうだよ。ぼくはあの子の大切なぬいぐるみなんだ。)
だから、もしかしたら、落とした人はぶたさんを探しに戻って来るかもしれないのよ。
(そうなの?あの子は来てくれるの?でも。)
なのに、りらちゃんがお家にぶたさんを連れて帰ってしまったら?
持ち主さんは、ぶたさんに会えなくなって、がっかりして悲しい思いをするかもしれないのよ。
(がっかり、してるの?
あの子はぼくに会えなくて?
でも。
ぼくを見つけに来てはくれない。なぜなの?)
だから。そうね。どこか見えやすい所に置いておいてあげましょうね。」
お母さんに言われてその可愛い小さな女の子はぼくを抱いて走った。
そしてぼくを公園の入り口の植え込みの前の大きな岩の上に置いた。
「ごめんね。ぶたさん。りらのお家に連れて行ってあげれなくて。
ぶたさんの飼い主さんがきっと探しに来てくれるね。
早く来てくれるといいね。バイバイ、ぶたさん。」
その女の子はそう言うと、ぼくの頭をよしよしして、お母さんのいる方へ走って行ってしまった
ぼくは少しだけ空に近くなったその岩の上から、女の子を見つめた。
「さよなら・・・・」
そしてぼくは今日も公園の入り口で、また色々な人を見送る。
ほとんどの大人はぼくには気付かないようで、公園自体に興味が無いみたいに急ぎ足で道を通り過ぎて行く。
小さな赤ちゃんを連れたお母さん達は、公園の入り口にいるぼくを見て赤ちゃんに「ほら、ぶたさん!」と笑ったり、落とし物ね・・と少し首をかしげて通り過ぎたり。
ほとんどの人は立ち止まることもなく、ぼくはただ通り過ぎる人の顔と、背中を見つめながら過ごしていた。
ぼくはもうただぼーっとして時間の流れに身を任せて、ただそこに居ようと思った。
それも悪くないのかもしれない。
少なくとも、この場所なら、人々の足しか見えないあの時よりぼくの心はつらくない気がするから。
公園を出入りする子供たちの元気な顔や遊んでる楽しそうな声が聞こえるから。
この場所に来て、何日かたって、ぼくがそう思い始めてたある日、、お日様がポカポカ気持ち良くてついうとうととお昼寝してたぼくは、なんだか何かを感じて目を開いた。
何だろう?
公園の入り口前の道路のちょっと離れた所からぼくをじっと見つめている。
ぼくはぼくを見つめるその子の顔をじっと見つめた。
その子は、急ぎ足でぼくの前を、ぼくを見ずに通り過ぎて行った。
あの子は一体なんでぼくを見ていたんだろう?
考えても分からない。
もしかしたらぼくを見ていたと思ったのはぼくの気のせいかもしれないな。
そんなことを思いながらぼくはまたポカポカの昼寝に目を閉じた。
今日も来てる。
また今日もだ。
あの日から毎日のようにあの男の子はやってくる。
だけど決してぼくの側には寄ろうとはしない。
ぼくはその子の姿を見かけると、じっとその子を見つめる。
(ねえ、きみはだれ?どうして毎日ぼくのところにくるの?
なのにどうしてぼくに側に来ないの?)
ぼくの心はその子に問いかける。
でもその子は、今日も何も言わず、ただ黙って急ぎ足でぼくの側を通り過ぎていくだけ。
でもぼくはなんだか少しずつ、少しずつだけど、一日に一回、お日様が沈みかける頃にやって来るその子を自分の心が喜んでるのを感じ始めたんだ。
だって、だってね、その子は毎日、ぼくに会いに来てくれるんだって気がしてきたから。話すことも、ぼくの顔を見てくれることもないけど。
でもその子は、ぼくの前で更に少し急ぎ足になるその子は、ぼくに会うためだけに毎日、この公園まで来てくれているのだって分かってきたから。
ぼくの心はその子の姿を見つけると、ぽおん、ぽおおんって、あったかい音を響かせるんだ。
その子はぼくを知ってて、ぼくを、ただのその辺の石とかじゃなくて、ぼくってものに会いに来てくれるんだから。
それはぼくには何より嬉しいことだったんだ。
ぼくは毎日その子に言うんだ。
「今日も来てくれたんだね。
「君の名前は何?
「ぼくはぴーすけ。
「さよなら。また明日ね。」
ぼくはその子が通りすぎる時、毎日その子にいろんな話をした。
それはぼくの生きてる時間の中で、宝物みたいな時間になっていった。
でも、そして・・・。
またあれがいつだったのか。
もう何もかも分からない。
何がぼくをかえたのか、いやぼくの身体を動かしたのか?
にぎやかな子供達の声が聞こえたかと思ったら、ぼくの身体はガバッっと持ち上げられて、ボーンと飛んだ。
響き渡る楽しそうな声は嬉しかったけど、ぼくの身体は次から次へとぐるぐると飛ばされて。
・・・なんだかもう頭までがくらくらしてきた。
ああ。
どうしてぼくは自分で動けないんだろうね。
どうしてぼくはいつも何かに動かされるしかないんだろうって、なんだか悲しくなったんだ。
もう気持ち悪い位で。
うわああっと思ってたら、いきなりばああんっと身体が何かにぶつかって、ゴロンっと地面に放りだされてた。
そして次の日は、ぼくは子供たちの足でけられて宙を舞って、ぼくは自分が本当はボールだったのかと思い始めてた。
でもそのうち、だれもぼくで遊ばなくなったんだ。
ぼくは公園のはしっこに寝っ転がって公園を見回す。
子供達は楽しそうに遊んでる。
楽しそうな声が木霊する公園で、もう誰もぼくに気付かない。
ぼくの身体は斜めに転がったまま。
ぼくは公園のはしっこで四十五度の世界をただ眺めている。
やがて何日かした時、誰かの手がぼくの身体をガシッとつかんでぽいっと投げた。
そしてぼくはそこにいた。
公園の至るところから集められたいろんなものたちと一緒に。
ずっと、ずっと・・・・・。
ぼくにはもう全部分かってた気がする。
多分これからもずっと、ぼくはそこに埋もれて、埋もれ続けるのだろうと。
ある日ぼくは、ゆっくりと目をつむって、ぼくの心にさよならした。
その日はお天気が良かったのに、急にポツリポツリと雨が降り出して。
公園からは段々人がいなくなっていったようで、やがて人の気配も消え、ただしとしとと雨音だけが地面をふるわせていた。
昔、ぼくは雨に濡れるのが嫌いだった。
一緒にお出かけして、しっとりと雨にぬれたぼくの身体を、大きなバスタオルでせっせとふいてくれたのは。
あれはいつ?
あの子は・・・。
公園の岩に座っていた時も、何回かいきなりシャワーみたいな雨がふってきたっけ。
子供たちが「ゲリラ豪雨だ!帰ろう!」って急いでたけど、ぼくはただ濡れるしかなくて。
濡れて気持ち悪いなあっていつも思ってた。
でもあの場所はすぐお日様がぼくを照らしてくれてたから、ぼくはぬれた身体をぶるぶるってして、お日様に乾かしてもらってた。
今?
今は。
・・・・ぼくはぬれているのかな?
ただ、もう、ぼくの身体は重くって。
自分の身体が自分じゃないみたい。
ただただ、もう何も感じないんだ。
ぼくはただ、そこで他のものたちと一緒に泥にまみれて、泥に埋まって、泥になっていくみたい。
雨が容赦なくぼくの身体を打ち付けても、ぼくはもう、痛みも感じないみたい。ぼくはただそこに在るだけ。
そうだ。また目を閉じよう。
ずっと。ずっと。
もう閉じたままで・・・・。
ガラン、ガラン、ガガガガア~・・・・
雨の音を打ち消すかのように響き渡った音がぼくを起こした。
なに?
いつの間にか雨足は強まりザーザーと激しい痛い位に地面を打っていた。
だけど、その雨を吹き飛ばすかのような轟音が公園中に鳴り響いた、かと思ったらそれはやがて寂し気にギイーッ、ギキイッギイと、啼きながら止まった。
そしてぼくは静まり返っていた公園に誰かがいるのに気付いた。
ジャバッ、ジャポンっと誰かが水しぶきを飛ばしながら歩いている。
こんなどしゃぶりの雨の日に公園に人がいるのは珍しい。
無意識に開いたぼくの瞳が、一体だれがいるのだろうと辺りを見渡そうとするけれど、ぼくの周りには色々なものがあふれていて、ぼくの身体は半ばそこに埋もれていて、周りがよく見えない。
バシャバシャって雨を弾きながら走り寄ってきた二本の足が見えた。
ぼくの近くの水飲み場に立ってる。
雨の激しさで音は聞こえないけど、いつも子供達がここで水を飲んでるからなっと思いながら、ぼくは妙に雨の日のこの公園の訪問者が気になって仕方なかった。
ぼくは自分の目をぎょろぎょろっと動かして、精一杯上を見上げた。
ぼくのその視界の先には・・・。
「!」
あの子だ。
そう!あの子だ。
ぼくに毎日会いに来てくれてたあの子。
何も話さずただ急ぎ足で通りすぎるだけだったけど。
ぼくは知ってた。
あの子はぼくの前を急いで通りすぎた後、いつもちょっとだけ振り返ってぼくの姿を見つめて、そして立ち去ってくれてたこと。
そう、あの子はぼくに会うためだけに毎日来てくれてたんだってことを。
そう、ぼくは知ってたんだ。
行ってしまう・・・。
その子は水を飲み終えて、水飲み場の一段を降りた。
ああ。
行ってしまう。
ぼくの。
ああ。
もし。
もし、ほんとうに、空に。
かみさまっているのなら。
ぼくを。
見てくれているのなら・・・。
『かみさま。
ひとつだけ。
たったひとつだけでいいから。
ねがいを、かなえてください・・・。』
「ぴーちゃん」
ああ。
あの子がぼくを見る。
そしてその手がぼくに伸びる。
気付いた時にはぼくはその子の胸に抱かれていた。
その子はぼくをぎゅっと抱きしめた。
「ぴーちゃん。ごめんよ。ずっと、ずっとここに居たんだね。
僕、・気付かなくて。知らなくて。ぴーちゃんは、自分のおうちに居るって・・そう思ってたんだ。ちゃんと、自分のおうちにって。
でも。ここに、ここにずっといたんだね。」
ぼくを抱きしめて涙を浮かべるその子にぼくは必死で言った。
謝らないで。
君は悪くない。
だって、君はずっとぼくを見ててくれたよ。
ずっとぼくに会いにきてくれた。
そして、今、きみは、ぼくを見つけてくれた。
「ぴーちゃん。おうちに帰ろう。」
その子がぼくに言った。
ぼくはその子の瞳をじっとみつめて言った。
うん・・・。うん。
心の中でその子に何度も頷きながら、ぼくは自分の瞳から滴り落ちる雨粒が妙に生温かくなっていくのを感じた。
それはぼくの心の中にまで染み渡っていく。
その雨粒に触れたぼくの心の真ん中から何かが沸き上がってくる。
それは段々ぼくの全身の隅々にまで伝わってぼくの身体はなんだか小さく揺れているみたい。
それはその子がぼくを抱っこしてずっとぎゅっと抱きしめながらどこかへ連れて行ってくれているその温もりのせいなのかな。
どこへ・・・?
ぼくは答えを知らないけれど、でも多分答えは分かっている気がした。
その子の温もりに包まれて、その胸の中で夢見心地の気分でうっとりと揺れながらぼくの耳にはあの言葉が木霊していた。
「ぴーちゃん。おうちに帰ろう。」
ぼくはまたなんども頷く
うん・・・。うん。
『かみさま・・・かみさま。
ねがいごとをかなえてくださって。
ありがとうございます。
ぼくは、ぴーちゃんじゃなくて、ほんとはぴいすけだけど。
でも、でも。
ぼくは、いま、みんなとくらせて、とってもとってもしあわせです。』
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かみさまはうそつきなの?
第3note 『はっぴい』 ⇓ ⇓ ⇓
第1note 『ねがい』 ⇓ ⇓ ⇓
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