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海外版ライオンキング観劇記録@バンコク

タイのバンコクで9月にライオンキング(ミュージカル版)を観たときの記録です。観劇後の感動冷めやらぬまま書いた、とっちらかったメモをまとめるのをすっかり忘れたまま今日になってしまった。ネタバレあるので、今後観る予定の方はご注意を!


「10代で口ずさんだ歌を、人は一生口ずさむ」

もう何年も前の、SONYのウォークマンの広告コピーだ。

10才くらいの頃、私が聴いていたのはミュージカル「ライオンキング」の曲たちだった。クラスメイトたちがモー娘。を歌い踊る中、私は家でライオンやらマントヒヒやらイボイノシシやらになりきって歌い踊っていた。

お年玉やらお小遣いやらを貯めて、ひとりでキャナルシティまでライオンキングを観に行っていた。

さてその思い出のライオンキングが、なんとタイのバンコクで上演されているというではないですか。インターナショナルツアーということで、タイ語版ではなく英語版です。

バンコクに来て初めて上演されていることを知り、そのままの勢いでチケットを購入。韓国では売り切れ続出するくらいの人気公演だけど、ここバンコクでなら当日券がゲット出来てしまった。なんてこった。

子どもの頃は何ヶ月も前に予約して日めくりカレンダーを手作りするくらい首を長くして待っていたライオンキングが、大人になった今、開演15分前にチケットが買えてしまう。大人になるってなんと贅沢なことだろう。

興奮のあまり実感もわかないまま、席につく。

観客は、6割くらいがタイ人、あとの4割はタイに住む欧米人という感じ。日本人は一人も見かけなかった。日本だとかなりの割合でリピーターがいるけれども、今回は初めて観る人が多いようで、すべての反応が新鮮で楽しかった。

(このあと、ところどころ劇団四季との比較が出てくるけれども、あくまでどっちがいいとか悪いとかではなく、「違うっておもしろいね!」という話です。どっちも大好きです。)


さて今回の公演、もう、めちゃくちゃ良かった。ひとまとまりの文章にするにはエナジーが先走っちゃってるので、場面ごとに振り返っていきたいと思います。太文字は曲名。


サークル・オブ・ライフ
おそらくは初見のお客さんが多いのだろう。動物たち出てきたときの客席の盛り上がりがすごい。わ〜〜〜!って歓声と盛大な拍手。3階席にまで伝わってきた。フレッシュな空気感に、なぜか私まで誇らしい気持ちになる。

そして、気づいたことがある。あれ・・・?ムファサがめちゃくちゃカッコいいのでは・・・??????

劇団四季のムファサって、いつも「いいお父さん」のイメージだったのだけど、今回のムファサはなんだか違う。なんていうか、もっと心の底にやんちゃな心を持ってそうな。結婚前、さぞかしモテ散らかしてただろうなという感じ。生まれながらにスポットライトを浴びて愛されまくって生きてきた人のオーラがすごい。

対するスカーは、徹底的に悪役としての役作りが出来上がっていて、ムファサとの明暗の対比が大きくておもしろい。スカーという役、演者によっては湿度高めというか、「俺も昔辛いことがあったんでね」というスネイプ的な心の闇を感じる人もいるし、それはそれで大好きなのだけど、今回のスカーは違った。もう、金スキ!権力スキ!女スキ!みたいな王道のゲスさが出ていて、同情の余地なしという感じ。気持ちいいほどの悪。

厄介者のスカーにかんしてムファサが思いなやむシーン、ザズのセリフは「一家に一匹はああいう厄介なやつ(=スカー)がいるものです。うちの弟はツイ廃でしてねぇ・・・」とアレンジが効いてて会場を沸かせてた。


雌ライオンの狩
これはもっと近くで見たかった。表情とか。レイヨウの跳躍力がすごい。アンテロープさんのアドリブが効いててライブ感あった。


早く王様になりたい
ヤングシンバがひたすらに自然体なのが好印象だった。いい意味で優等生ぽくない。「ダンスがんばってます!歌も練習してます!」という雰囲気が、まったく漂ってこない。なんていうか、「歌うのも踊るのもめーっちゃたのしーーー!!」って好き勝手やってたら気づいたらここまで来ちゃってましたという感じ。

ヤングナラもよい。今までヤングナラって「おませな女の子」的なイメージを持ってたんだけど、今回の上演を見てそれがいっきに変わった。いい意味でぜんぜん性別を感じさせなくて、男とか女とか関係なくいっしょに居て楽しい友だちと遊んでた頃を思い出させる。男と女としてではなく、「シンバ」と「ナラ」として仲良しなんだなぁというのが、大人になって見るとなんだかぐっとくる。おいおいザズ、ちゃかすな。恋やらロマンスやらそういうこという大人がいるから、大事な友だちといっしょに居づらくなるんやぞ。心の中でザズを叱った。

最後、奇抜なカーテンに向かってザズが叫ぶところ。「なんですかこのチャトチャックマーケット(タイの有名な週末市場)で買ったシャワーカーテンみたいなものは!!(怒)」とタイバージョンになってました。


お前の中に生きている
「うおりゃっっっ」とひとしきりシンバと楽しくじゃれあってからの「ぼくたち、ずっといっしょだよね?」という息子の問いかけに対して答えられなくなるところの気持ちの落差がよかった。喜怒哀楽を大きく表現するムファサなだけに、切実なものを感じた。


覚悟しろ
艶のあるスカーの歌声がよい。ヴィランズの魅力が濃縮されていた。カッコつけるところを1ミリの照れもなくとことんカッコつけるのが好き。

ハイエナダンスのキレの良さに鳥肌立った。ダンスに対する語彙を持ち合わせてないのが悔しいけれども、無表情な兵隊のダンスって見ていてヒヤリとする恐さがある。


ヌーの大暴走
背筋がぞっとした。今まで見たヌーの中でいちばん恐かった。理由のひとつはおそらくパーカッション組の迫力。普段は座った状態で目の前のボンゴ(?)を叩いている彼ら。ヌーのときは立ち上がり背を向けて、和太鼓を叩きだすのです。ビジュアル的な迫力もあるし、音も強いしで、どきどきしちゃった。

相変わらずムファサパパの演技が表情たっぷりなので、勇敢さだけでなく彼の中の焦りまで伝わってきて、見ていてしんどいくらいだった。「よっしゃ〜!父ちゃんが助けにいくぞ〜〜!!」ではなく「息子が!!!死ぬかもしれない!!!!!」という焦りの演技。思い出すだけでも息苦しい気持ちが蘇る。


ムファサの追悼
ムファサは地面にそのまま。雌ライオンの嘆きの紙テープでは、やっぱり笑いが起きてた。あれ、国を超えてみんな笑うのね。


ハクナマタタ
ハゲタカのことをかっこいいと初めて思った。しなやかな筋肉の美。足の動きひとつでも惚れ惚れしてしまう。

ここのティモンのセリフもタイバージョンになってた。「これがほんとのアングリーバード、ってな!」(東南アジアではなぜかアングリーバードが根強い人気。なんであんな人気あるのかは謎)。

しかしハクナマタタ。大人になるほど沁みるよな。小さいころはオナラの歌としか思ってなかったけど。大人になった今、心配ごとばかりの世の中だよ。

ちなみに日本だとヤングシンバの退場時に拍手が起きるけど、ここでは起きなかった。初見の人が多いからなのかな。

そして、「しんぱいないさ〜〜」で出てきたシンバの筋肉に目が釘付け。ふだん筋肉なんて全然興味がないのに、この公演では筋肉に心が振り回されっぱなしだ。ほんとうに美しい。生命の力強さ。


ワン・バイ・ワン
CDとだいぶメロディが違って面白かった。みんなが幸福そうな表情で歌うのが良かった。営業スマイルではなく、舞台に立つ喜びと誇りに裏打ちされた微笑みに見えた。買いかぶりすぎだろうか。


スカー王の狂気
ザズが口ずさむギャグパートは「レット・イット・ゴー」。会場もウケてた。嫌なヤツに徹してて救いようのないスカー、潔くてよかった。


シャドウランド
前回東京で観たときもそうだったけど、年を重ねるごとにこの曲への思い入れが増していってる。それは私自身の受け取り方の変化なんだろう。

いつだって去るのは(または、去らされるのは)立場の弱い者だ。

メスライオンたちはナラの仲間だから立場は違うけれど、頭の中に欅坂46の「黒い羊」が浮かんだ。”そうだ僕だけが居なくなればいいんだ”

アニメ版では食料を探しにきたという設定だったけれど、ミュージカル版の流れを見ると、上司から嫌がらせを受けて職場に居づらくなった人の旅立ちのように見えた。


愛を感じて
ヤングシンバとヤングナラがただただ素朴に「ともだち」だっただけに、ここでの関係性の変化にドキッとさせられた。おとな・・・君たちおとなになってる・・・・・・!友情が恋愛に変化する瞬間の化学反応がビリビリ伝わってきて、濃厚な色気に圧倒されてしまった。


・・・


全体を通して

印象的だったのは、影の美しさ。大人なってからは「どうせ見るなら」と1階席で観る機会しかなかったので、いつも演者の顔に注目していた。けれど今回3階席で、表情が見えない分全体像を見ながら楽しめたのがかえってよかった。演者のかぶるマスクたちの造形の美しさに惚れ惚れした。

特にスカー。象の骨の上に立っているときのあのシルエットの美しさといったら!なんて繊細。影だけで滲み出る悪。ため息が出そうなくらいかっこいい。悪役の美だなぁと。

影絵を多用している舞台だから、あのシルエットも間違いなく計算されたもの。子どものときは全く気づかなかったな。

そして改めて、ジュリー・ティモアの演出の素晴らしさ。子どもの頃、「ライオンキング ブロードウェイへの道」という本を読んだときから、どこか引っかかっていることがあった。それはティモアの「ライオンキングには強い女が出てこない。だからラフィキを雌にしたの」という言葉。

当時の私は、オスだろうがメスだろうが男だろうが女だろうがなんだっていいじゃないのと思っていた。だからこそ彼女の言葉がするりと理解できなくて、なんとなくずっと引っかかっていたのだと思う。

今、時代を先見していた彼女のすごさに改めて気づく。

(余談だけど、実写版のライオンキングではスカーが自ら狩に行ってた。野生のライオンの動きにあれだけこだわっていた実写版で、野生のセオリーに背いてまでオスのスカーを狩に出させるところにディズニーのポリシーを感じた。つまりは、「食べ物を用意するのは女の仕事」という描写を明らかに避けてるのだなと。)

・・・


10代で口ずさんだ歌を、人は一生口ずさむ。

12才の私は、母にカタカナのルビを振ってもらい、意味もわからないまま「早く王様になりたい」を歌っていた。28才の私はその歌を、頭の中で奏でながら帰路についた。

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片渕 ゆり(ぽんず)
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