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骨を発掘している

ぐんぐんと振れた針が見たことのない数字を指して止まった。

久しぶりに受けた健康診断。身長は1センチ伸びており(なぜ?)、体重は私の想定を2キロ上回っていた。人生最高体重へ、堂々の突入である。

それでもまあ、いろいろと不安定なご時世ですし、メンタルのヘルシーが最優先。生きてくためには、せめて好きなものくらい食べてかないと、と思っていた。一日の終わりに飲むビールと寝る前に食べるパルムは最高の癒しであり最強のガソリン。

人生史上最高体重&最高体積を記録してからも、数週間は特に何も変わらなかった。というか、変えなかった。ひとさまの体型にあれこれいう時代ではなくなってきているし、痩せ至上主義もすこしずつ過去のものになりつつある(これは本当にありがたいし良いことだと思っている)。

体重なんて、ただの数字。

そう思っていた私の生活を変えたのは、友人が職場からもらってきた万願寺とうがらしだった。


「会社でお裾分けされたから、ぽんちゃんもどうぞ」ということでもらった万願寺とうがらし。かつて京都に住んでいたときにはよく目にしたけど、上京してからはなかなか食べる機会もなかった。

シンプルにただ焼いて、お醤油と鰹節をかけた万願寺どうがらし。これがめちゃくちゃ美味しかった。ちょっと歓声を上げてしまうくらい。

野菜、うまい。野菜、もっと食べたい。

そこから私の食生活ががらりと変わった。もともと凝り性なので、ハマるとどんどん知りたくなる。焼き野菜から始まり、サラダの美味しさにも目覚めた。インスタで「#サラダレシピ」と検索すると、見目麗しいご馳走サラダのレシピがどんどん出てくる。すると今度は発見タブに、オートミール料理のレシピも出てくるようになった。

かつてウラジオストクで半ば無理やり食べさせられたオートミールミルク粥がプチトラウマになり、オートミールは一生食べなくていいやと思っていた。見た目はお粥なのに薄甘〜いそれは、なまあたたかいミルクの香りとともに脳内に記憶されている。

が、インスタに出てくるオートミールは、私の記憶の中のそれとずいぶん様子が違う。トマトリゾットに中華粥、グラタン、はてはドーナツまで。どれも美味しそう。ダイエットのためというより、「見知らぬ美味しいものと出会いたい」という気持ちで、気づけばスーパーのオートミール売り場に立っていた。

興味が出る前まではすべて「コーンフレーク」だと思っていた棚。そこには、じつさまざまな種類のオートミールが並んでいた。一番オーソドックスに見えるオートミールを手に取り、家に帰るやいなや中華粥を作ってみる。

いい意味で、ただのお粥。これはもう、ただの中華粥。もともと中華粥は大好きなので、炊飯器で作るよりも簡単に中華粥が食べられるのはハッピー。

野菜とオートミールで生活しはじめて数日後、心なしか体が軽くなってきたことに気づいた。なんだか調子がいい。低血圧で長年悩んでいた朝のだるさが、いくらか軽減されている。朝昼晩、ちゃんとお腹が空く。階段をのぼっても息切れしない。

なんだか楽しくなってきたので、YouTubeで「のがちゃんねる」と「トレぴな」のストレッチもやるようになった。せっかちなので、どちらも「鬼」と書いてあるコースを選び、空き時間に体を動かすようにした。


ーーー


それから数日後のこと。

私の体から「お尻」が発掘された。比喩なんだけど比喩じゃない。今まで背中と太ももに挟まれて輪郭を失っていたお尻が、うっすら存在感を取り戻していた。化石発掘体験で、サメの歯を見つけたときのような嬉しさ。ある、ここには確かに骨がある。

そしてお尻のあたりが軽い。今まで私のお尻には子泣き爺でもついとったんかいな?と疑いたくなるほど。椅子から立ち上がる瞬間、ベッドから起き上がる瞬間のあのダルさが、どこかへ消えた。


こうして、私の発掘作業が始まった。側から見ればダイエットに勤しんでいるように見えるだろうが、私にとってはれっきとした発掘作業である。ここ数日で、「アキレス腱」と「腹筋」の輪郭もおぼろげながら見えてきた。こうなってくるともう、ひたすら楽しい。

わりと順調に結果が見えてきた理由は、それまで溜まりに溜まっていたむくみと水分が落ちてきたからだろう。本当の発掘作業は、むくみの落ちきったあとに始まるはずだ。結果として自分の体を好きになれたらラッキー。


発掘作業日記、今後も続いたらまたきっと書きます。

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