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恋の散文 -12月のこと

季節は12月らしさを急にまとった風の冷たい日で
病院の中、受付横のエレベーター前に飾られた小ぶりなクリスマスツリーが、かすかに聴こえるオルゴール音と共にチカチカと光っていた。

院内から見える外は、紅葉や道に溜まった枯れ葉とともに人が往来していて、日は柔らかくあたたかに見えた。

眠気と空腹であたまがぼんやりしていて、久しぶりに着たコートもなんだかまだなじんでいないからか、余計に今に現実味がなくて、いつか夢の中で見た一場面のような、ずっと昔か、ずっと未来の、自分だけれど自分ではない誰かが経験している時間を見ているみたいだった。

気づいたら隣に座っていた彼が、一緒にいることがあたり前の人のように思えた。
5年くらい付き合った彼氏のような。

今日はどんな一日になるんだろう。

一年前には考えもしなかった冬の日を迎えていた。
この日がどんな未来につながっていくのか。

***

検診を終えて受付へ戻ってきたら、彼の姿はまだなかった。

院内から見る外は相変わらず静かでおだやかで、少しだけさっきよりも人の往来が増えていた。
入院患者と思わしき高齢の男性の手を取って、きびきびと明るそうな看護師の若い女性が横断歩道を渡っていく。

…なんだか、どんなでもいい気がした。

いつもどこか静かで、脇役が主人公の歌を生きているような人生を歩んできた。
人並みにいろんなことがあったし、常識的にはあまり経験しなくていいようなことも、時には選択して経験してきた。でも、結局私は、異様な物分かりの良さと、いびつに大人びた部分があった幼い頃からたいして変わっていなくて、他人からしたら決して幸せとは思われない今の日々も、自分らしいとさえ思っている。

それでいい。

そんなことをぼんやり考えていたら、彼も検診を終えて戻ってきた。

「行こうか」

外は思っているよりずっと風が冷たいこともほんとうはわかっている。
彼と肩を並べて、“自動ドア”を通り抜けた。

大丈夫。

いつかこの人とも一緒にいられなくなる日がくるんだろう。

でも、でも、もしかしたら、
私が思っているよりずっと長いこと、この先一緒にいることになるのかもしれない。

どっちでもいいよ。
大丈夫。

季節が巡って、私はまたきっと、今日と同じような静かなある日をむかえている。
それがわかるくらいは、年を重ねてきた。

どこにいるのかも、誰といるのかもわからない。
ひとりかもしれない。
でも、それでいい。

だから、今は、彼と微笑みあえる今日を大切にしよう。

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私は刹那しか生きられない。
でも本当は、人生ってそれしかないはず。
先のことなんてわからないし、約束なんてできない。
私はいつでも今のほんとを体現したい。
今しかない。
ただただその積み重ねの先に、人生ができるだけ。


この日記のBGMは、paris match さんの『ETERNITY』という曲が私の世界観です
とても素敵な曲なのでぜひ聴いてみてください

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