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見たことのないの景色

「見たことのない景色を見に行こう」

その言葉のとおり見たことのない景色を見に行ってきた。舞台は今まで一度も足を踏み入れたことのないカップ戦の決勝。いつも余所のチームが戦うのを、羨ましく妬ましく思いながらテレビで見ていた場所だ。

旭川空港の搭乗待合には、赤黒のレプリカを着た人やチームカラーの服を身にまとった人たちが結構いた。目の前にいた女性に声をかけると、やはり埼スタに行かれる方だった。優勝したら絶対泣くよね、とかそんな話をしながら機内へ向かう。

飛行機は30分遅れで羽田に着いた。気になっていた雨は上がっていた。宿へ向かう電車の中、ルヴァンカップ決勝のCM画像が流れてにやけそうになった。夢じゃないんだ、明日はここで応援するんだ…。


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試合当日。前日の雨が嘘のような晴天。浦和美園駅から埼玉スタジアムに向かう道中は、ルヴァン決勝のデコレーション。歴代優勝チームの一番新しいところに「北海道コンサドーレ札幌」が飾られる、その瞬間に立ち会える僥倖。高まってくる気持ちに急かされるように、歩く速度は早くなった。

前日シート張りしてくれた仲間に感謝して、列に入れてもらう。10月末なのに直射日光が暑い。いまの時期、最高気温が15度くらいまでしか上がらない道北民にはかなり辛かった。残念だけど、この時点でアルコールは自粛決定。過去に湘南で熱中症になりかけた身としては安全第一が絶対。

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開場、座席確保。何度も来ている埼スタ。初めてホーム側から見る景色。ああ、あんなに広いんだ。いつもあれの半分よりも狭いところにぎゅうぎゅう詰めで押し込まれて、赤く蠢くホームゴール裏を見てたんだ。

コンコース内をうろうろしたり、売店へ行ったりしているうちにピッチ練習が始まる。

最初のスティング。メインとバックにかかっている屋根のせいなのか、思った以上に音が反響して「おおーーー」と声が出た。

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刻々と時間は過ぎ、伊藤宏樹氏と我等がC.R.C河合竜二氏の手によってトロフィーが運び込まれる。そして選手入場。そこから先の長くて短かった時間。菅ちゃんのゴールで先制するも終了間際で追いつかれる。後半逆転されて、最後の最後に深井さんの起死回生のヘッドが決まった時は、歓喜のあまり周りのサポと抱き合った。

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川崎相手に延長戦まで持ち込めるなんて想像すらしてなかった。多分それは相手も同じだっただろう。

延長に入る前のGO WEST。メインとバックにいたコンサのサポーターが、タオルを掲げて立ち上がって歌っていたのを見て泣きそうになった。延長前半、チャナが倒され谷口が一発退場となり数的有利に。ふくちゃんが超絶FKを決めて逆転した時「これ、もしかしたらいけんじゃね?」「このまま時間さえ過ぎれば…後半何とかやり過ごせば…。」と思った。

甘かった。大甘だった。ここで逃げ切ることができるようなチームじゃないことをわかっているのに、ついつい期待してしまった。

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まさかのPK。30分残業におまけまでつけてくれてありがとうございます状態。心臓が口から出てきそうな緊張感の中、川崎の車屋が外した。キッカーは直樹。ここで決まれば優勝。肩が組まれる。ジーンズのポケットの中には、芯抜きして巻き直した赤い紙テープが入ってる。どのタイミングで投げたらいいんだとか、決まったら泣くかなとかいろいろ考えていたら…あっけない幕切れ。

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対面の水色の集団が躍っているのを呆然と見ていた。暫く何の感情も湧かなかった。涙も出なかった。決勝で負けるってこういうことなんだ。表彰式で小林悠が誇らしげにトロフィーを掲げた。あれをうちの選手たちがするのを見たかった。そう思ったら無性に悔しくなった。

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試合後、赤羽での宴会は大盛況。試合中ノンアルで過ごしていたので、ただしいのみもの(サッポロビール)が沁みた。宴会が終わり、赤羽駅前でいつものアレ。かわいそうに、運悪く近くにいた川崎サポ2名が無理やり巻き込まれて犠牲となった。駅前交番のおまわりさんは、事の一部始終をただ苦笑して見ていた。バカばっかりの酔っぱらいで申し訳なかった。

ジェットコースターみたいに感情が上下した、長くて濃密で楽しかった一日だった。

無事帰宅し一晩寝たら、緊張が解けたのかいろんな感情が混ざり合って湧いて出てきた。土曜日にはリーグ戦が再開されるというのに、いまもまだ自分の中に落とし込めていない。

決勝の舞台は麻薬だ。一度この舞台を味わうとまた味わいたくなる。だからまた戻ってきたい。次は一番高いとこからの「見たことのない景色」が見たい。





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