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【屋久島空港問題 ♯8】 羽田直行便就航後は軒並み採算ライン割れ それでも就航する航空会社があるの?

 

図1 「新規事業採択時評価」一般空港における新たな空港整備のプロセスのあり方 案)

図1の評価基準を屋久島版に直すと、「羽田ー屋久島ジェット機直行便(B737-800か A320)を就航する確約が、新規事業採択時評価までに航空会社と成立すること。」となります。

一方パンフは14万人という”偽りの需要予測”をでっちあげましたが、実績値と著しく乖離しており、数値の妥当性が疑われます。

今回は実績値のまま羽田直行便が就航した場合の搭乗率を計算して、就航する航空会社があるかを考えます。

羽田直行便が就航しても採算割れ


パブリックインボルブメント/住民参画用パンフレット

前回計算した実績値は実績値は一番多い年で60,500人、直近で46,000人、22,900人だったので(♯7)、この状況でパンフが言うとおりに定員165名のジェット機が毎日1往復運航した場合の、搭乗率を計算します。

羽田直行便の年間満席数
165 (席/1機)× 2(往復/日)× 365(日/年)=120,450(席/年)
 
”偽りの需要予測”14万人で計算した搭乗率 
140,000 ÷ 120,450 = 1.162 ≒ 116% 
 
”嵩増し実績値”60,500人で計算した搭乗率
60,500 ÷ 120,450 = 0.502 ≒ 50%  → 採算ライン割れ
 
直近の実績値41,700人、22,900人で計算した搭乗率
46,000 ÷ 120,450 = 0.381 ≒ 38% → 採算ライン割れ
22,900 ÷ 120,450 = 0.190 ≒ 19% → 採算ライン割れ
 
 

羽田直行便が就航すると、鹿児島便まで採算割れに 


次に羽田直行便就航後の鹿児島便の搭乗率を計算します。

現在鹿児島便は48人乗りATRが1日1往復、70人乗りATR72が1日4往復、計5便が運行しています。

全乗降客数の嵩増し平均値は170,000人、鹿児島便の乗降客数は129,500人で、その内訳は関東からが60,500人、その他が69,000人です。(#7)
 
パンフの通り、「関東‐屋久島間では経路④(羽田直行便)を大部分の乗降客が利用する」つまり、「関東からの来島者がほぼ全員、鹿児島経由ではなく直行便を利用する」と仮定すると、

「大部分の乗降客」≒ 60,500人が鹿児島便から羽田直行便に乗り換えることとなり、鹿児島便には69,000人の乗降客しか残りません。
 
 
鹿児島便の1年間の満席数は、70人乗りを1便ずつ減らすごとに次のように変化します。(現在の運行状況にならって1便は48人乗り、それ以外を70人乗りとする。)

1日5便  (48+70×4)×2(往復)×365(日)=239,440(席/年) 
1日4便  (48+70×3)×2(往復)×365(日)=188,340(席/年)       
1日3便  (48+70×2)×2(往復)×365(日)=137,240(席/年)      
1日2便  (48+70)×2(往復)×365(日)=86,140(席/年)

 
直行便就航前 5便/日  
129,500 ÷239,440 = 0.540 ≒ 54% → 採算ライン割れ

直行便就航後は”嵩増し”実績値”69,000人を用いて、便数ごとの搭乗率を計算
 
直行便就航後 5便/日   
69,000 ÷ 239,440 = 0.288 ≒ 28% → 採算ライン割れ
 
直行便就航後 4便/日   
69,000 ÷ 188,340=0.366 ≒37%→ 採算ライン割れ
 
直行便就航 3便/日
69,000 ÷ 137,240 =0.502 .≒50%→ 採算ライン割れ
 
直行便就航後 2便/日    
69,000 ÷ 86,140 =0.801 .≒ 80%
 

羽田便直行便は就航しても運行停止に、鹿児島便は減便必至 


上記計算結果から何が読み取れるのでしょうか。

まずは「採算ライン割れ」の重みを実感するために、航空会社のコスト構造と搭乗率に関する記事をご覧ください。

(搭乗率は)交通機関の業績を測る上でなくてはならない指標である。一般に交通機関の費用の大半は固定費なので、一度運航を決めた後は、売り上げを伸ばす、つまり搭乗率を上げる他に費用を回収する方法はない。 丁度運航費用を回収できるギリギリの搭乗率は特に損益分岐搭乗率(採算ライン)と呼ばれ、経営上重要視される。搭乗率が損益分岐搭乗率より高ければ黒字、低ければ赤字となる。
旅客機の場合は燃料費や同時に運搬する貨物などで変動するが、例として2022年のANAホールディングスでは60%を採算ラインとしている。

Wikipedia「搭乗率」


ところで、国内線運航便の採算ラインはどのくらいだと思いますか?一般的には大手航空会社は搭乗率60%低価格帯の進行エアラインやLCCでは搭乗率70%が採算ラインと言われています。国内線の多くで使用されているB737やA320がだいたい150席とすると、新興エアラインでは105席以上が埋まらないと厳しいということになります。

飛行機の素朴な疑問を集めてみたら 「国内線運行便の採算ラインはどれくらい?

毎月巨額の固定費が出ていく」                                   航空業界のコスト構造は非常にシンプルです。売上高を100とすると、コストが90、利益は10。この90のコストのうち、3分の2にあたる60が固定費、残り30が変動費です。固定費は、飛行機のリース代や賃料、人件費などで、このコストは運休・減便をしても減りません。一方の変動費は、燃料代、空港着陸料などで、こちらは運休・減便で減らすことができます。 

文春「コロナ禍で航空業界の地図が変わる/スカイマーク会長が描く『日本の空』の未来


ということで実績値のまま羽田直行便が定期就航すると、それ自身が採算ライン割れの搭乗率になります。”嵩増し実績値”でも50%で、直近の実績値など惨憺たるものです。

こんな赤字経営は継続できないので、2009年の種ケ島と同様に早晩定期運航停止に追い込まれることでしょう。(かつての鹿児島県はそれがわかっていたからこそ、ジェット化に慎重だったはずですが)
 

一方で直行便に客を取られた鹿児島便の方も搭乗率が悪化して、採算ラインを大きく割り込んでいきます

減便しても大きな固定費は減らないがせめて変動費だけでも減らすために、航空会社としては減便に踏み切らざるをえないでしょう

何便で下げ止まるかは不明だし、よもや撤退に至らないことを祈るばかりですが。
 

このような採算割れが生じるのは、実績値に対して、“偽りの需要予測”14万人も、定員165名のジェット機の定期就航も過大にすぎるからです。
2,000m滑走路の必要性を言うために、課題にせざるを得ないのです。

採算ライン割れの赤字路線に、就航する航空会社は? 


ここで非常に根本的な疑問がわいてくるのですが、そもそもこんな採算割れ赤字路線に就航したがる経営者などいるのでしょうか。
 
もっと具体的にいえば、パンフが経路比較に用いた羽田空港に就航する航空会社のうち、

B737-800を就航するのはJALとスカイマークとソラシドエアの3社。

A320を就航するのはANAとスターフライヤーの2社。


以上5社の中で1社でも就航してくれる会社があるのでしょうか。
 

私見にすぎませんが、先ほど航空会社のコスト構造を語ってくれたスカイマークの会長は、絶対にNO!というはずです。

2015年に経営破綻した同社に新経営者として就任した現会長は、不採算路線からの撤退と、乗客の見込める確実な路線にシフトする搭乗率向上策等を徹底し、僅か1年で奇跡的なV字回復を遂げた人です。そんなシビアな経営者が赤字確定路線に乗り出すはずがありません。
 

というわけで残る4社のうち大手2社は、他の黒字路線で赤字路線の補填も可能かもしれませんが、ソラシドエアやスターフライヤーは採算ラインも高めで、他路線で補う余裕もないでしょう。

最後に残った大手2社ですが、JALが就航するとなると自社グループ日本エアコミューターの屋久島‐鹿児島路線を、みすみす潰しにかかって共倒れを選ぶようなものです。そんな馬鹿げた判断をする経営者がいるとは、とても思えません。

 
♯2の動画にもあった通り、丘珠空港に鋭意就航準備中のトキエアの社長だって、周到な調査の結果この路線なら儲けを出せると確信をもって就航を決めたのです。

動画の中でプロペラ機の経営的利点や貨物の収益化、産地直売、資金調達の困難、地元出資者の大きな期待等々を熱く語っていましたし、他社の社長は就航前に地元に赴き自らPR活動に精を出したとか…。

民間航空会社は儲けを出すために就航路線を選んで必死の努力をするのですね。儲け度外視で赤字路線に就航する航空会社など、ますます見つかりそうな気がしません。 


乗客が見込めて儲けが出せる路線とみれば、トキエアのみならずFDA(フジドリームエアラインズ 丘珠から静岡、長野、小牧に就航)なども、航空会社の方から就航申し入れをしたようですが、屋久島ではとんとそんな話も聞きません。
 

いつまでたっても就航会社が見つからない

 
平成27年(2015年) 屋久島空港滑走路延伸関連の初予算計上

荒木町長 「空港を延長するためには事前に定期便を就航させる確約が必要になる。機会あるごとに各社に要望している。屋久島直行便に魅力を感じている会社もあるので積極的に働きかけていきたい。LCCは魅力的だが、発着空港路線枠の問題、会社経営の状況等を勘案して話を進めたい。まずは就航中のJALの他、大手航空会社との協議が先である。当面の課題は滑走路延伸早期事業化なので、それに向けて活動していきたい。」

議会だより平成29年(2017年)9月号

荒木町長 「事業化には路線開設の確約が必要であるので、各航空会社に積極的に働きかけている。格安航空機での首都圏からの成田便や、奄美大島、沖縄からのインバウンドの需要も視野に関係機関との関係を密にして早期事業のスピード化を図りたい。」

議会だより平成31年(2019年)3月号


令和2年(2020年)パンフ配布、パブリックインボルブメント実施

荒木町長 「県は令和3年度、滑走路の延伸の事業化に向けた環境影響評価の手続きや基本設計等の予算として1億3千万円計上されている。県から国の新規事業採択に必要な条件として、事業完成後の就航する航空会社の確保及び旅客数確保の取り組み計画の提示を求められている。」

議会だより令和3年(2021年)6月号

町長の議会答弁を時系列で並べてみましたが、初予算から既に8年余りを経過して相も変わらず繰り返しているのは、就航する航空会社との確約が必要だというただその一事。


ここに至って候補のひとつもあげられず、何ひとつ具体的な話もなければ進捗具合も全く見えません

 

一方太字で示した町長自身の奮闘ぶりを語る言葉は、年を追うごとにみるみる減ってむしろトーンダウンしている印象です。

こんな調子で、新規事業採択時評価までに航空会社の確約が得られなければ、冒頭図1ならびに屋久島版の評価基準を満たすことはできません。

 

記事まとめ


【屋久島空港問題 ♯0】 「屋久島空港の滑走路延伸計画」は2,000 m滑走路の必要性を捏造している ~その首謀者と目的は?~ 
【屋久島空港問題 ♯1】 2,000 m滑走路の目的は、屋久島‐羽田間のジェット機就航。1,500m滑走路でジェット機就航中の空港もあるのに。
【屋久島空港問題♯2】 1,500m、1,800mでもジェット機が飛ぶなら、2,000m滑走路の必要性はない
【屋久島空港問題♯3】 鹿児島県の態度急変と同期する2,000m滑走路。因果関係があるのでは?
【屋久島空港問題 ♯4】 情報隠しとウソとごまかしのパンフ
【屋久島空港問題 ♯5】 「新規事業採択時評価」と評価の基準
【屋久島空港問題 ♯6】 需要予測なんかしないで出した “偽りの需要予測” 14万人
【屋久島空港問題 ♯7】 14万人よりかけ離れて少ない実績値(関東からの鹿児島便乗降客数)
【屋久島空港問題 ♯8】 羽田直行便就航後は軒並み採算ライン割れ それでも就航する航空会社は?(←現在の記事)
【屋久島空港問題 ♯9】 関東方面からの旅費低減と時間短縮で、223億5千万円の経済効果?!
【屋久島空港問題 ♯10】 屋久島町の急激な人口減少
 


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