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【屋久島空港問題 ♯9】 一部旅行客の旅費低減と時間短縮で、223億5千万円の経済効果?!


図1 「新規事業採択時評価」一般空港における新たな空港整備のプロセスのあり方 案)
図2 新規事業採択時評価の概要


国交省が定めた需要予測手法に背いた“偽りの需要予測”14万人は、実績値と著しく乖離するばかりか、実績値のまま羽田直行便が就航した場合は早々の運行停止と鹿児島便の減便まで招来してしまうことがわかりました。

屋久島町民にとっては今よりずっと不便になる可能性が濃厚なのに、パンフは屋久島町民の利便性も高まり云々と、投資詐欺まがいのおためごかしを書いています。

「羽田空港-屋久島空港の直行便が開設された場合,関東の方のみならず,屋久島町民の利便性も高まり,十分な需要が見込まれることから,滑走路延伸の必要性があると考えられます。」 


パンフはまたp8の費用対効果の図でも、ごくささやかな効果に仰天の高値をつけているので、今回はこれを取り上げたいと思います。


費用対効果分析なのに、経済効果の金額を隠す


パブリックインボルブメント/住民参画用パンフレット

パンフは必要な数字を隠してわざとわかりにくく書いているので、隠された数字を【 】で補って、図の内容を書き直してみるとこうなります。
 

概算事業費C  約150億円
効果B   【 223億5千万円(C×B/C=150億×1.49=223億5千万円)】
費用対効果(B/C)1.49

効果B【223億5千万円】の内訳
● 屋久島~関東間の旅行時間の短縮
● 屋久島~関東間の旅行費用の低減
● 無線施設等の整備による既存路線(鹿児島,福岡,伊丹路線)の欠航便の減

旅行時間の短縮+旅行費用の低減=223億5千万円?!


このように数字を隠さずに書いてあれば、この内訳で223億5千万円もの経済効果になるの?と疑問に感じる人も多いでしょう。

試しに旅行費用低減効果を計算してみるとこうなります。

 パンフの経路比較によれば鹿児島乗り継ぎから羽田直行便に乗り換えると2000円安くなり(#6)、“偽りの需要予測”14万人がこの恩恵にあずかるので、往復×365日で計算すると約200万円/年が費用低減効果になります。

2,000(円)×140,000(人)×2(往復)×365(日)=2,044,000(円)

旅行時間の短縮効果の方は、羽田直行便に乗り換えると1時間の時間短縮になるというので2000円/時間と仮定すると、上の式と全く同じ計算式になって、200万円/年が時間短縮効果になります。

しかし両方合わせても年間400万円の効果しかなく、10年間でも4000万円。ということは223億5千万円の大半を、「無線施設等の整備による既存路線の欠航便の減」がたたき出したことになります。

「欠航便の減」の計算方法はわかりませんが、さすがにこれは法外すぎるし、それ以前にパンフ自ら書いているようにあくまでも「無線施設等の整備による」効果であって、滑走路延伸の直接の効果ではありません。

たとえ滑走路延伸をしなくても無線施設単独で整備できるので、これを滑走路延伸効果に含めるのは極めて問題。どこから見ても、223億5千万円は現実離れの法外な数値といえそうです。

費用と効果から費用対効果を求めずに、好きなように費用対効果を決めてしまった


そもそも費用対効果B/Cは、効果Bと費用Cから計算で求めるのに、パンフは費用対効果を1.49としながら、効果の数値を書いていません。

上記計算式からすればこれは非常に不自然なことで、意図的に隠したとしか考えられないのです。

おそらくは望ましい費用対効果を決めてしまい、そこから効果を逆算したらさすがに法外すぎる結果が出たので、人目にさらすわけにはいかなくなったものでしょう。

評価基準の11万人と搭乗率100%をいい具合に上回る14万人という数字を勝手に決めてしまい、需要予測と偽ったのと全く同じ手口です。

しかしどんなに費用対効果をお手盛りしても皮肉なことに、一部旅行客の費用低減と時間短縮というショボい効果しかないことがばれています。

しかもその裏には鹿児島便の減便による避けがたい地元住民の不利益が厳然として存在するのだから、「物理的に無理」な2,000m滑走路は、経済的にも全く無理筋なのです。
 

丘珠空港の観光による経済効果と多面的な役割

  
ちなみに丘珠空港では滑走路延伸によって、現行の道外3路線から10 路線へ、年間旅客数27万人(2019年度、2020年度は32万人)から100万人以上への増加を想定したうえで、観光による経済効果を次のように見込んでいます。
 

札幌市の試算によると、丘珠空港で道外路線1便が通年で1往復すると、年間10億円の観光による経済効果が見込まれます。

「丘珠空港の将来像」p17


この他にも丘珠空港が担う多面的な役割を多数掲げており、その中で滑走路延伸の直接的な効果に限ってもざっと次のようなものを数え上げています。



札幌丘珠利活用検討委員会参考資料3 「滑走路延伸毎の効果やデメリット」


「丘珠空港の利活用に関する検討会議報告書」


  • 医療面:メディカルウィングの受け入れ及び拠点化、定期航空便による医療従事者・通院患者の移動利用

  • 防災分野:災害時等における 新千歳空港や 他の交通機関の 代替としての活用

  • 便数及び旅客数:環境基準の範囲内で就航可能な想定便数と想定年間旅客数

  • 周辺地域の開発やまちへの波及効果:商業施設等利便施設の誘致 アクセスの向上

  • 新千歳空港との役割分担:道内及び東北路線等の丘珠空港への移転、ビジネスジェット機等の代替 受け入れ 


これらを一瞥しただけでも、パンフにおける一部旅行客の費用低減や時間短縮効果ががいかに異質でしょぼ過ぎかがわかると思います。

国交省が所轄する全ての公共事業計画に費用対効果分析を求めているのは、膨大な国家予算を無駄金にしないための当然の措置です。費用対効果を度外視できる唯一の例外は、防衛関連事業くらいではないでしょうか。

パンフの費用対効果分析は徹頭徹尾でたらめで、地元住民の不利益を含めればむしろマイナスなので、図1の評価基準を満たすことができません。

 

「屋久島空港の滑走路延伸基本計画」の本体もお粗末


パンフの費用対効果の図は、そっくり同じものが「基本計画」本体の方にも載っていたので、パンフが特に住民だからと説明を端折ったわけでもないのです。

こんなずさん極まりないものをよくも新規事業採択時評価に提出できるものだと呆れてしまいますが、もう中身なんかどうでもよいからとにかく出すだけ出せば合格、そんなお約束でもあるかのようです。

基本計画書が全3ページしかないことも驚きです。丘珠のみならず北九州空港の滑走路延伸計画等と比べても、こんなにぺらぺらで中身の薄い資料は見たことがありません。

新規事業に採択されて予算をつけてもらいたければ、自ずと説明に力が入るはずなのに、ますます出来レースが疑われてなりません。


「屋久島空港滑走路延伸基本計画」


観光による経済効果を計上できない


でっちあげを得意技とするパンフのくせに、滑走路延伸による経済効果の中に観光による経済効果を計上しなかったことも注目に値します。

観光立島を自認する屋久島にとってそれこそが最大関心事かつ最重要事項なのに、その期待に全く応えられないのだから。

観光経済効果なんてパンフが一言も言ってないのに、ジェット機直行便が就航したら観光客も増えるだろうと一人合点していたら、手酷い期待外れに終わることでしょう。そうなっても勝手に期待する方が悪いのだから、誰も責任をとってはくれません。
 
パンフが観光による経済効果を謳いたくても謳えない、その理由を次回から考察したいと思います。

最初から2,000m滑走路ありきで、代替手段の検討もしていない


新規事業採択時評価の5つの評価項目のうち、残るは図1の「代替手段の検討」だけになったので、駆け足で片づけておきます。
 
2000m滑走路への延伸整備を行わない現行1500m滑走路でも羽田に直行可能な、ジェット機並びにプロペラ機の検討がなされていません。

「物理的に無理」を強行突破しない分、自然破壊も事業費も肥大化しない1800 m滑走路の検討もなされていません。
 
2000m滑走路は最初から決まっていたので、「当該整備を行わない場合を含めた代替手段との比較」が全くなされておらず、図1の評価の基準を満たしていません。

5項目の評価の基準に全滅


以上で評価項目の5項目全てを検証しましたが、ひとつ残らず評価の基準を満たせず残念な結果に終わりました。

本計画は、2,000m滑走路はジェット機就航の目的にとって必要がないのに、必要性を捏造するために様々な策を講じてきたものです。

その結果新規事業採択時評価の評価基準をひとつも満たすことができず、完全に破綻をきたしてしまいました。

一般空港における新たな空港整備のプロセスのあり方 案)」  には、「整備目的ごとに示した全ての評価項目が評価の基準を満たすこと」という注意書きがあるので、本来は1項目でも基準を満たせなければ不採択です。

全項目が基準を満たせず破綻した本計画など不採択間違いなしですが、そうとばかりもいえません。この点については後日改めて考えたいと思います。

 次回は観光問題の根幹にある人口減少問題について考えます。

記事まとめ


【屋久島空港問題 ♯0】 「屋久島空港の滑走路延伸計画」は2,000 m滑走路の必要性を捏造している ~その首謀者と目的は?~ 
【屋久島空港問題 ♯1】 2,000 m滑走路の目的は、屋久島‐羽田間のジェット機就航。1,500m滑走路でジェット機就航中の空港もあるのに。
【屋久島空港問題♯2】 1,500m、1,800mでもジェット機が飛ぶなら、2,000m滑走路の必要性はない
【屋久島空港問題♯3】 鹿児島県の態度急変と同期する2,000m滑走路。因果関係があるのでは?
【屋久島空港問題 ♯4】 情報隠しとウソとごまかしのパンフ
【屋久島空港問題 ♯5】 「新規事業採択時評価」と評価の基準
【屋久島空港問題 ♯6】 需要予測なんかしないで出した “偽りの需要予測” 14万人
【屋久島空港問題 ♯7】 14万人よりかけ離れて少ない実績値(関東からの鹿児島便乗降客数)
【屋久島空港問題 ♯8】 羽田直行便就航後は軒並み採算ライン割れ それでも就航する航空会社は?
【屋久島空港問題 ♯9】 関東方面からの旅費低減と時間短縮で、223億5千万円の経済効果?!(←現在の記事)
【屋久島空港問題 ♯10】 屋久島町の急激な人口減少

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