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台風見物した軍艦島の住人

2018/9/7 毎日新聞お天気みちくさ 掲載分(毎日新聞許可済み)

 長崎県の端島、通称「軍艦島」に行ってきました。軍艦島は湾内ではなく外海(そとうみ)にあるため高波の影響を受けやすく、国の重要な産業である炭鉱を守るため、RC造のアパートを並べていました。アパートが防潮堤の役割を果たしていたのです。もちろん住宅側ではなく廊下側の壁面で受けていたようですが、人の住み処を盾にするとは、今では考えられない発想です。

 ガイドの方の話で興味深かったのが、奥様方が「台風見物」をしていたという説明があったこと。「今回の台風は前回の台風より強い」などと、アパートの上から高波を見て台風の品評をしていたというのです。軍艦島の奥様方は自分達の目で実際に高波を見て、井戸端会議で判断をし、さらに上に移動すべきかなどを話し合っていたのでしょう。

 「普段あまり大雨にならない地域なので、より警戒が必要です」という言葉を我々気象キャスターはよく発します。私自身この言葉は、物理的な対策がなされている、地盤が雨に慣れているといった「ハードの側面」を指すと思っていました。しかしその言葉の真に意味するところは、むしろソフトの側面なのだと気づかされました。軍艦島に住んでいた方々はきっと皆、天気の、嵐の恐ろしさを知っている。これ以上来たら危ないというラインを経験や伝承を通して理解していて、避難すべきタイミングがわかる。井戸端会議で周囲と相談する癖もついている。

 ところなさほど嵐が襲来しない地域の人々は、その恐ろしさを知らない。伝承や経験がないため避難するタイミングがわからず、周囲と相談する習慣もない。このようなソフト面の差を指すのだと思いました。

 嵐の恐ろしさを知っていた軍艦島の人々に倣うべき点はたくさんあります。ただ唯一真似てはいけないのが「実際に自分の目で見て判断する」という点です。現代はデータで危険が確認できる時代です。様子を見に行って危険に巻き込まれることも多いので、その点は見習わないようにして

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